自分が欲しいものが何かなんて、理由がなければ分からない。
腹が減れば空腹を満たす為に食い物が欲しくなるし、
身体が疼けば女が欲しくなる。
比較的簡単な二択でこれまで生きてきたはずだ。
そんな生き方を変えるつもりは毛頭ない。


「…何だよ」
「素直じゃないのねぇ、あんた」
「あ?」
「愛されたいだけの癖に」


煙管を燻らせる女は嘲るようにそう言い、乾いた笑い声を発した。
元々あってないようなものだった仲間意識なんてものは
とうに消え去り、只の男と女になってしまった。
まあ、後悔はしていない。
ジンとふうを見ていれば、
に手を出した事実自体が間違っていたのだろうと
思いはするが、我慢は出来ない性質だ。仕方ないと諦める。


昨晩もそうだ。
それなりの腕を持った剣豪(名の知れた、という奴だ)と向き合い、
確か雷鳴が轟いていたと思う。
集中し過ぎて辺りの事なんて覚えていないのだ。
は詰まらなさそうに川縁に座り込み、様子を伺っていた。
昔から言うように、力を持った奴らは色を好む。
刀が鳴り響く最中、あの剣豪はいい女だな、確かにそう言い、
ああ、ムゲンもそう答えた。


ジンとやりあった時ほどの高揚を得る事は出来ず、
三十分ほどやりあい、最終的に返り血を浴びたムゲンは、
一目散にの元へ向かい、
彼女の細い手首を掴んだまま死骸側へ向かった。
石の礫は血を吸い、叩きつける雨がそれを消す。


「お前の事、いい女だって言ってたぜ、野郎は」
「へぇ…」


増幅する川の音が轟々と鳴り響き、
貪るように口付ければ冷えた彼女の唇が微かに震え、
何事かを告げようとした。声を発する前に塞いだ。
こうやって身を交わしても何一つ分かり合えないと知っていたからだ。


経験した事のないものには誰だって恐れを抱く。
愛された事のないムゲンは誰かを愛する事も、
愛される事も恐ろしく、
そうしてそれを知られたくない為に無用の皮を被った。


「あんたと交わしてたら、同じ事ばっかり聞こえるのよ」
「あ?」
「愛されたい愛されたいって、そんな。愛してるのにね」
「馬鹿言うんじゃねぇよ」


吐き捨て背を向ける。
心が透けた事を恥じたわけでない、認めきれないだけだ。
身体が疼くから求める。それだけは決して嘘になりえないから。
こんな生き方をしている癖に、
何故に本当を求めるのかは分からないままに。


無意識に動かした右手がの指先に触れた。
彼女の指先は先日の唇同様、冷えていた。



手を繋いでいたいなんて誤魔化し


だった



すっげえええ久々のムゲン!
うわーいつ振りだろう、書いたの…!
2003/4/10