今日も又、白々しい一日が始まりやがったと口には出さず、
小鳥の鳴き声で時刻を判断する。
明け方までの時刻は嫌いでない。それ以降が好きになれないだけだ。
好きにはなれずとも、どの道眠りに落ちる時間帯ではある。
太陽の姿なんてもう忘れてしまった。
あの血生臭い日、伏しながら、もう自身の力だけでは立ち上がれず、
刀を地に突き刺し、どうにか起き上がった日。
辺りに散らばる同士の死骸が歪んだ視界一杯にうつり、
ここが現世の果てかと思った。
散々に身体は痛むが何故か笑いがこみ上げ、膝をついたまま一人笑う。
泣いているのだと気づいたのは数分後で、
背後から肩を叩かれたのと同じタイミングだった。
全てが終わったと知り、もう何もかもが嫌になったが言葉さえ出てこず、
背後に立ち尽くす銀時にしがみ付き泣いた。
生死の境目で命を削っていた緊張が一気に解けたせいだと思う。
銀時は何も言わず、何を見ていたのだろう。
死骸の転がる風景を眼に焼き付けていたのだろうか。
「…どうして」
「俺ァ執念深い男なんだよ」
「晋助」
あれから随分な時間が過ぎ、世の中も随分変わってしまった。
時代に逆らい生きる桂のようにはなれず、
銀時のように秘める事も出来なかったは、
只々歳月を消化する道を選んだ。
生きながら腐っていくようで、
まるでくだらない人間だと自身の事を思えれば楽だったからか。
目標を失えば駄目になる。
その目標が大きければ大きいほどだ。
時折、よろづ屋に顔を出し、銀時と他愛もない言葉を交わす。
少しだけ救われるような気がするが、それも一瞬の事だ。
よろづ屋を出て、家路につけば闇に引きずり込まれる。
驚くほど淋しさがつのるが他に方法を見つける事が出来ない。
銀時に向かい、手を伸ばす事は容易いだろうが、
臆病な自身は出来ないでいる。接触はあの時にしがみ付いたきりだ。
「悪いけど。もう、あたしには何もないわよ」
「いいや、そりゃあ違うな」
「何?」
「お前ん中にゃあ、思い出が残ってやがる」
「…ちょっと」
「一度たりとも忘れちゃいねぇぜ、俺ァ」
「!」
「あの、光景は」
待ち人のない部屋の鍵を開ければ、中から腕が伸び、引き摺り込まれた。
油断していたと言わざるを得ない。
勝手知ったる間取りが浮かび上がり、
乱闘を起こせる広さはないと思えば、畳に叩きつけられる。
暗がりに浮かび上がった顔が名を呟くより先に口をついた。
高杉。
闇は闇の中にしかいないとはよく言ったものだ。
あたしを引きずり込むのはやめて。
「ちょっと…!」
「野郎にしがみ付いて、くだらねぇ真似して」
「晋助―――――」
「馬鹿が」
細い手首をきつく握り締めを見下ろす。
あの、銀時にしがみ付き泣いていた光景が
瞼の裏に焼き付いて剥がれないのだ。
どうして、何故。
お前も俺もくだらねぇ人間じゃねぇか。
お前は俺と同じだったじゃねぇか。
俺とお前だから許されるんだよ。互いを許しあえるんだよ。
そんな事も忘れちまったか。
だからあんな場所でも死なねぇで生き延びる事が出来たんだろうが。
御法度物の薬を口移しで流し込めば、の眼差しが歪んだ。
脳髄まで痺れ、このまま堕ちていけばいい。俺も、お前も。
が無理矢理に身を起こそうとした。
今度は掴むものもなく、高杉に阻まれる。涙は、零れなかった。
押し込めていたものを引きずり出し
てくる作業
高杉、執念深すぎ
2010/4/13