天地に呼び出されるのはよくある事だ。
こちらからの呼び出しには一切応じない癖に、人の事は平気で呼び出す。
そもそもが金の絡む話なわけで、そうでもなければ、あんな野郎の言葉は何一つ真に受けない。
その点、こちらと天地の利害関係は完全に一致しているわけだ。
だから、こんな深夜の呼び出しも何ら特別ではなく、単なる日常だと善明は思った。


まあ、只一つ、違う点といえば、屋外ではなく屋内だったというところだ。
天地が指定した場所は、マンションの一室だった。
この近辺では一番値の張るという噂のマンションであり、
多少なりともおかしいとは思ったが、世間話に花を咲かせる間柄でもない。
言葉少なめに了承し、そちらへ向かった。


オートロック式の入り口で立ち往生し、天地に電話をかければ、
すぐに自動ドアは開き、エレベーターへ向かう。
これだけの戸数があるというのに、生活音一つ聞こえない住居に違和感を覚えた。


「…何見てるの」
「お前、天地の何だよ」
「何って、見て分かるでしょ」


天地は少し前に出て行ったと告げたのは見知らぬ女だった。
少し年上と見受けられる女。
善明の姿を見ても、驚き一つ見せない女は、それこそ無防備に中へ招き入れた。
寿はすぐに戻るからと告げた女は、善明に居場所さえ与えず、テレビの前へ向かった。
そうして三十分だ。テレビからは詰まらない番組が垂れ流されており、
録音されたかのような笑い声ばかりが漏れていた。
女はクスリとも笑わず、眠っているのかと思えば先の言葉だ。


「あいつの女かよ」
「あんたは、寿の友達でしょう」
「はっ」
「それと同じ事よ」


すぐに戻るという天地は未だ帰らず、得体の知れない女と同室にいる羽目になっている。
天地に友達なんているはずもない、きっとこの女も分かっているはずだ。
のこのこと見知らぬ男を部屋に上げるこの女の心中は定かでない。


「戻って来ねェじゃねぇか」
「電話でもしてみたら」
「…」


こちらを向かない女は、テレビの画面にばかり視線を向けている。
何となく近づき、隣に腰掛けてもやはり女は視線一つ寄越さず、
こんな室内にはバラエティ番組の音ばかりが響いていた。



れ 冷静な判断は過ちを孕んでいますよ


天地なのか善明なのかという話よりも先に、
名前変換がないという話ですよ。
ごめんね…。
2010/10/18