「天地の女」は善明の存在を少しも気にしていない様子で、煙草に火をつけた。
ふと、テーブルに目をやれば、灰皿には二つの銘柄が転がっており、
やはりこの部屋に天地はいたのだと思えた。


「お前、名前は」
よ」
「俺の名前は聞かねぇのかよ」
「善明くんでしょ」


君付けされ、思わず笑った。そんな呼ばれ方はいつ振りか。


「天地に聞いたのか」
「名前だけね」
「へぇ…」
「だから、あたしは何にもならないわよ」
「…」


肩に回しかけた手が止まる。
はテレビから視線を動かさない。
灰が焼ける音が聞こえた。くわえる、口唇。


「俺ァ、あいつの友達なんかじゃねぇよ」
「そうなの」
「お前は何だ」
「天地の父親の愛人」
「!」
「面白い話よね」


紫煙を吐き出す口唇は淡々と言葉を紡ぎ、やはり眼はこちらを捕らえない。
中途半端な空白を持て余していれば、何の前触れもなく天地が戻るもので、
少しだけ気まずくなったが、やはり気を使う間柄でもない。
素知らぬ顔で振り向けば、天地もと同じような、無機質な眼差しをこちらに向けていた。



れ 冷静な判断は過ちを孕んでいますよ


天地の父親は養父の方です。
思わず、続きを書いてしまったぜ。
2010/10/19