お前の気配は感じていたと囁かれ、
やはりこの男には隠し事一つ出来ないのだと笑った。
ゼブラが出て来たという噂を耳にし、
まあたまたま遭遇したサニーに話を聞けば、
あいつら本当に出しやがったのかと愚痴を零され
(しかもその際、最近肌の調子がよくねェんじゃね?等と
美容に関する講釈を垂れ流されながらだ)
やはり本当なのだと確信を得た。


あの男が投獄されてからどのくらいだ。
懐かしい顔を見たくて、美食家業を投げ出し探しに出かけた。
居所こそ分からなかったが、ゼブラのいる場所は大々的に報道される為、
あまり難しい話ではなかったのだ。


「…ひさしぶり」
「…あぁ?」
「せめて、こっち向いてよ」
「うるせェな」


ゼブラは風吹き荒れる広野にいた。毒を持つ猛獣が多数存在する場所だ。
俗にいう危険区域。
実際、がゼブラの元に辿り着くまでにも
捕獲レベルが30以上の猛獣達に幾多も遭遇した。
砂嵐が吹き荒れ、シャツがたなびく。
まるで時間がすっかり止まってしまっているようだ。
ここにはとゼブラしかいない。
いや、まるでこの世界には二人しかいないようなそんな感覚。


「相変わらず弱ェ女だぜ」
「…何よ、それ」
「よくもそれで美食家を名乗りやがる」


ゼブラはまだこちらを向いていない。
大体そうだ。大体が背中しか見ない。
ゼブラはこちらを向かない。いや、に向き合わない。


「こっち見てよ」
「…」
「あたし、待ってたのに」
「ご苦労なこった。頼んじゃいねェぜ」


頻繁に揺れる喜怒哀楽なんてものは、とっくに知れているはずだ。
こちらの心の内はとっくに知れているはずなのに、ゼブラは決して答えない。
恐らく興味がないのだろう。
きっと、あたしなんて生き物には微塵も興味がない。
それでも追いかけてしまう。
まるで相手をしてもらえず、歯牙にもかけられないのは今に始まった事でないのだ。
これまでもそうで、これから先もきっと。


「…泣くなよ。うるせェからな」
「しばらく、一緒にいていい?」
「あぁ?」
「だってもう、夜じゃない」
「弱ェ癖に、のこのこ来るからだろうが」


こちらの気持ちに気づかないわけがない。
心音の変化、この鼓動が彼に聞こえないわけがない。
それでもゼブラは何も答えず、だからといって拒否する事もない。
生殺しだと分かっているし、彼がそれを意図的にしていないのだとも分かっている。
興味がないのだ。だから今は、彼のその杜撰な心に甘え、隣に座っている。



もし明日が雨だったとして


傘は僕を守ってくれるのか



唐突にトリコ。
まさかのゼブラ。
次はサニーかしら。
2012/2/11