は何故だか笑っていて、
いや笑っているのではなく微笑んでいて、
それだから九里虎は困ってしまった。
海岸沿いを歩くだなんてシチュエーションは、
余りにもありきたりで恥ずかしすぎる、
はそう言っていたにも拘らず望んでここへ来た。
陽の落ちかけている時間帯の海は美しいのか恐ろしいのか分からない。
山ほどの色彩が陽炎と化す。
は延々と海岸沿いを走っているし、
九里虎はそんなの後をゆっくりと歩いていた。
追いかければ容易く捕まえられる、
只追いかける気にはならなかっただけだ。
何故だろう。携帯の電源を切っている理由さえ分からない。
「・・・!!」
「何ち?」
「・・・!」
波音にかき消されよく聞き取れないの声に、
少しだけ不安を覚えた九里虎は急ぎ足で駆け寄る。
が逃げた、距離を保って。
潮風にの髪が揺れる。
今彼女はどんな顔をしているのだろう。
海岸沿いを電車が走る、は足を止めてそれを見る。
横顔が見えた、九里虎は足を止めた。
の横顔を見ていた。
何を思ってそんな顔をしているのだろう。
「!!」
「何?」
「何ば見よるとね」
「何って・・・」
「ワシにも見せてくれんね」
「九里虎に?」
それは無理よ、は笑ってそう言い又走る。
「何でね、」
「何でって、」
「ワシには見えんち、」
どうして―――――
そう聞いた九里虎には応えた。
あたしの心はあたしにしか見えない。
何故だか酷くがっかりした九里虎は、
強引にを捕まえきつく抱き締めた、そのまま砂に埋もれた。
あたしは彼が大好きなわけですよ