トラウマ

「あんたにずっと逢いたかった、」
「そりゃ、悪ぃな」
「ずっと待ってた、本当に」
「けどもうよしな、

そういい事じゃねェぜ。
揺ら揺らと揺れるジェクトはそう言い困ったように頭をかいた。
あの時とまったく変わらない姿だ、
嫌とは言わずだからといって嘘も吐けはしない。


「そっち、行っていい?」
「好きにすりゃいい」


けど、遠い眼差しの先にはきっと奥さんがいて、
ジェクトは奥さんを裏切らないだろう。


「あいつらもいる?」
「ああ、待ってるぜお前の事」
「ジェクトは?」
「ん?」
「ジェクトは待ってないの?」


自ら死を選んだ。
このままダラダラと生きながらえても同じだと思えたし、
身体がなくなった方が何かと便利だと考えた先の結果だ。
ねえあたしキレイになった?あの頃とどこが違う?
惨めな己を晒してそれでも受け止めて欲しかったのか。
思いばかりがとてもとても溢れ出し は泣いた。




ジェクトの事を心底憎んだ時期もあった。
あんたさえいなけりゃあたしは、そう口癖のように呟き酒に溺れた。
それと共に元々大して信じてはいなかったエボンの教えを、
真っ向から否定し血を流す場面のみを求めた。
相手の血液と自分の血液が混じれば
それこそ生きている感じが、生きてはいないのかも知れない。
真実なんてそんなものだ、この世界では特に。
色んなものがそれを隠して真実なんて見えはしない。
ジェクトは、真実だった、 にとっては。


「ジェクトの・・・」
「余計な口は挟むな」
「・・・・」


長い時を越え再会を果たしたアーロンは
ジェクトの息子を連れ は眩しそうにその息子を見つめる。
本当の事なんて大して意味も持たないじゃない、
は唇を噛み締め笑顔でさえ作り上げた。
拳が固く固く爪が皮を破る、きっとここにも血が。
ジェクトに逢える確率は跳ね上がった、
絶対に逢ってやるわ―――――
きっと意地になっていただけだ。ティーダとも寝た。




細い指が頬を這い薄目を開けた は自分に口付けるティーダを見つめる。
馬鹿な真似をしていると、母親のようにティーダを抱き締めた。
ティーダはそれを余り喜ばなかった、愛してくれと求めた。
影を追っているのだろうか、ふとそんな事を思えば
やはり居た堪れなくなり諦める。
ティーダはティーダでありジェクトとは別物だ、
この事をアーロンが知ればどうなるのだろう―――――
無垢な少年は愛の存在等を誇示するに違いない。
そんなもの簡単に崩せるというのに。


「ティーダ、」
「何?」
「相性いいわよ」
「え?」
「あんたとあたし、」


絶対相性いいわ、口付けに応えながら がそう喘ぐ。
探らないティーダは無邪気に喜び当たり前っス、だなんて戯言を。
どうにでもしてよ、どうにでもして頂戴よティーダ。
きっと泣いているように聞こえたと思う。
目を閉じ愛撫を受けていればやはりジェクトと比べている自分が見え
は目を開けた。




「戻って来ねェな」
「ああ」


ようやく再開したあの場所、
その入り口で を待つのはギップルとパインの二人だ。
死んだと思い込んでいるあの女を二人は待っている。
確かに何かが原因で彼女の身体は老えもせず終えもせず―――――
精神的な事が原因だろうとは容易に予想がつく。
最初、確かアカギ隊の頃だったと思う。
偶然にも海で拾った女が だった、
錯乱は手に負えないほど酷かった。


「あいつ、今度こそ死んでんじゃねェのか?」
「バラライみたいにか?」
「笑えねー」


ユウナのガードになった事を知った時にはそれこそ驚いた、
自分達が死にかけた後だったから尚更だ。
シンが消え去った後の
何かがなくなってしまったかのようにまるで抜け殻であり
よく一人で海を眺めていたように思う。
パインとギップルが再会した時既に はパインと出会っていた。
二人とも知らない振りをしていた。


「あいつは無理だ、諦めなギップル」
「ヤダね」
「馬鹿」
「結構」


全然構わねェよ俺は、階段を上るギップルは
まるで子供のようにそう言い切りドアを開ける。
床に座り込み泣き伏す の姿を目の当たりにし溜息を吐き出す。
もうそこには 以外誰もおらず、
の控えめな鳴き声ばかりが木霊するだけだ。
胸の奥がやたらと苦しくなった。


、」
「・・・・・・・」

「・・・・・」


返事くらいしろってマジで。
に近づいたギップルは、
遣り切れないとばかりにそう吐き出し髪を撫でる。
俺だってずっとあんたの側にいんじゃねェか、ふと泣きたくなった。
悲しみは感染しそうして何になるのだろう。

好き過ぎて周りの扱いがこうなる