ゆるそうか

何もかもを許す、全てを忘れ全てを許す―――――
どんな罪も悪も全てを許してしまえば、
きっとそうすればこんな苦しみからは抜け出せるだろう。
嫌な嫉妬も妬みも憎しみも全部、消えてしまう恐れも全部。
許してもらう事よりもきっと許してあげる方が、今はそれを望む。
ジェクトを見殺したあの時を許してもらいたい、それは誰に。
あの時一緒に行かなかった自分を許して欲しい、
自ずと望んではいなかったとしても。
ギップルが自分を見ている、は視線を落としそのまま逸らす。
ヌージが何かを言いたそうにしていた、はそれも無視した。
バラライとは会っていない、口数の少ない割りに
やけに饒舌な坊やとは極力会わないようにしているだけだ。
パインと再会した時同時にユウナとも顔を合わせた、
ジェクトは元よりアーロンもいない現実を嫌というほど知らしめてくれた。
もう二度と会う事は出来ないと、それが重々理解出来ているのだから
尚更性質が悪いとは自嘲気味に笑った。




記憶と共に眠るはあの頃とまるで変わらず、今でもまるで変わらず。
剣を手にしたはあの頃と同じく戦いに魅力を感じていた。
確かそうだ、あの頃はシンを倒すという大義名分の為、
今は記憶を消す為だけに。
いい思い出と悪い思い出の共通点は山ほど思い当たるが、
確実な何かは理解出来ない。


「・・・・何、やってんの」
「見て分かんないの?」
「だってさ・・・」


あんた何も変わっちゃいねぇんだもんな、笑っちまうぜ。
ギップルはそう言いはそんなギップルを見上げる。
今はもう流行らない、こんな時代には流行らないに違いない。
ようやく人並みの幸せを手に出来、
平和なんてものが両手に落ちてきたというのに。
汗に塗れ戦いに明け暮れる生活は終ったも同然なのに。
は今でも一人、
延々とどこまでもどこまでも旅を続けているらしい。


「ザナルカンド、行った?」
「・・・・・行ったわ」
「んじゃ、終りだろ」
「・・・・・」


旅の終わりはザナルカンド―――――
言い伝えられた話だ。
そこに何があるのか、それを知っている人物は如何程永らえているのか。
ふと脳裏を過ぎる映像はまったくクリアで透き通っている。
何もないのよギップル、口を突きそうになる言葉を
すんでのところで飲み込んだは緩く笑った。
何もないものだからゴールもない、
スタートばかりが切られ延々と旅を続けるしかなくなる。 あの三人はゴールに辿り着いた。


「あんたさぁ・・・」


あの元召喚士様に言って頂戴よ、強い風が髪を揺らした。
ギップルはじっとを見つめる。
このやたら意志の強い眼差しが
とてもじゃないが耐え切れずは目を閉じる。
許しを請う相手にしては若すぎる、きっと間違いだろう。


「異界送りしてくれって、」
「冗談」


あんたまだ何もやっちゃいねぇし、大体俺は全然許せねぇし、あんたの事。
子供が駄々をこねるのと同じだ。
は悲しそうにギップルを見つめため息を一つ。


「許してよ、」
「ヤダね」
「いつまでここに縛り付けるつもりよあんた、」
「俺が死ぬまで、」


ずっとずっとここにいるんだよあんたは。
きつく握り締めた拳の向こう微かに震える足元がある。
ギップルは未だから視線を外しはしないし、
きっとこれから先もずっとそうだ。
許しを請う相手のいない今、
を許すも許さないも誰の勝手だと思う。
強い念がをこの世界に縛り付けているのならそれでいいと、
何て身勝手な回路だろうそう思いながら、
ギップルはようやく視線を逸らした。

ギップルも好きでした。毛色が分かりやすすぎる