後ろ手に縛られた腕が膿んでいるようだ。
神様は未だ姿を見せずはずっと放置されている。
目を閉じれば過去の風景ばかりが頭の中を駆け巡り、
懐かしさばかりが身を包んだ。
「・・・・・そんで、」
闇の中遺跡の中を駆け巡った、そのまま石畳へ階段を駆け下りそうして。
過去と未来の話を立て続けに連呼し目指すべき明るいあの瞬間を―――――
どこで何をどう間違った。
あたしがいなくってもあんたはやれるわよね、
もしあたしがそこにいなくっても―――――
そう信じるしか術はない。
目の前に細い光が、はゆっくりと顔を上げる。
「我は神なり」
「・・・・あんた、」
「お前は私の友人かな」
違う、そう言いかけても声が出ず、
力なく被りを振ったはそのまま視線を落とす。
砂利を踏む男の足音が聞こえた。
私はお前の友人かな。
かすり傷一つ負わせる事の出来なかった男はそう呟いた。
気分が悪くなるほど驚いたは目線だけを向ける。
喉が渇きロクな声が出ないのだ。
「何故生きている」
「・・・・・」
「犬死でもしておけば―――――」
楽に死ねただろうにな、ニヤリと神が笑う。
まったく驚くばかりだ、驚かせるのが趣味だとしか思えない。
僅かでも微力でも一応は命を狙う輩なのだし、
しかしこの男は何故知っているのか。
言葉を発するのは案外力を使う、だからはエネルの目を見つめた。
あんたもいい加減終わったらどうなのよ、
幾ら国を滅ぼせば気が済むのあんた―――――
それはお前も同じだろう、堂々巡りにもほどがある。
「なぁ、」
一つ取引でもしようじゃないか、随分退屈なものでな。
石に腰を下ろしたエネルは両手を組みの顔を覗き込む。
笑ってはいないのだろうに微笑を浮かべている。
は髪を掴まれ汚れた顔を晒す。
この遺跡内に存在する二人は確実に正気であり、どちらもとち狂ってはいない。
「お前の国は脆かったな、」
そうしてお前の仲間も同等だ、しかしお前は―――――
饒舌な神が褒め称える。
お前は中々見所がある、エネルは何を企んでいるのか。
お前達の僅かな世界などというものはまったくくだらん、
お前これに覚えがあるだろう。
舌を出したエネルを見上げる。
舌の上に何かが乗っている。は目を凝らす、そうして。
「ぁ・・・・・・・・」
「私を拝んだ協力者の成れの果てだ」
「嘘だ」
「私は嘘は吐かぬ、」
見覚えのあるそれは錆びたリングだ。
の左手薬指にあるものと同じデザインのリングだ。
何故リークしたのか、一番当たり前の理由を考えなかったのは今思えば不思議だ。
あの国を売った人間がいる事は事実であり、
それが仲間内にいたというのも有り得ない話ではなかったはずなのに。
どこにでもいるに違いない、命乞いの果てだったり金に目が眩んだり。
ああ、だから皆死んだのだと。
「は・・・」
少しだけ笑った、泣いていたのかも知れないし、
酷く微妙な表情になっているだろう。
エネルは相変わらず無表情のままを見下ろしている。
「お前が今思っている事をあててやろう」
エネルはそう言い顎に指を動かす。
「お前は―――――」
死にたいと思っているな、
いいやもっと早く死んでいればよかったと思っているのか、
馬鹿な女だ、エネルの声が響く。
つまらんものの為に生涯をかける気だったようだが、その必要もないだろう。
事実を有りの侭簡潔に告げる神に
言い返す言葉など見つける事が出来る道理もない。
「泣くがいい、」
私はお前を理解しよう、泣くがいい―――――
心神喪失状態に追い込み摺り込みを開始する。
が狂おうとも関係がないこれは暇つぶしなのだから。
この国を支配し壊した暁には、
大きな鏡の前このを連れ出し着飾らせた挙句、
キレイに整えさせた顔をより美しく映してやろうと。
そうして民を裏切った顔は美しい等と戯言を囁きかけよう。
どんな夢だよ。むしろ夢じゃねえよ・・・