パシフィック

二度と戻りはしない日々を思い出す。
思い出すだけで何にもなりはしない。
思い出すだけ無駄かも知れない。
切なく重なり合う影、
あの時のの言葉は何を意味していたのだろうか。


馬鹿だったと思う。
木陰の下で話をした、あまり楽しくはない話だった。
は終始俯いていたし、喜助だって空を仰いでいた。
あの時本心を晒せなかった、本当の気持ちを伝える事が出来なかった。
互いに。
二人で腹を探り合い相手を見てはいなかった。
淋しさだけが増した。


「・・・・無理じゃん」
「えっ?」


どうしたって結局無理じゃん、絶対喜助はあたしを置いてくよ。
は甘えない。
甘え方を知らないと喜助は言った。
はそんな事はないよと言ったし、
それでもやはり甘えなかった。
ぐっと堪える、自分の中で留めて
飲み込んでしまえば結果は見なくていいと。
怖くて悲しい答えなんて目にしたくないのだ。
悪くはないだろう、よくもない。喜助には何ともいえない。


「夢くらい見てもいいじゃないですか」
「それだけでどうするのよ」
「それくらいしか出来ないでしょうに」


の眼差しが嫌に剣を持った、喜助は諦めたように笑う。
夢やその先、決して見られないものを思い浮かべ現状を飲み込む。
はとても理解っているし
だから甘えないという心情も嫌というほど喜助には分かる。
それでも、今この時間だけは夢くらい見たっていいだろうと。
痛みばかりを全身に受けはきっと一人で生きていけない。
割り切れ。吹っ切れ。
期待外れの言葉ばかりが溢れ出た。
は分かっている。


「あたしから離れたくないですか?
「・・・・・」
「答えて、」
「喜助、」



力なく頷いたの髪を撫でる。
ぐっと堪えたの横顔、彼女は今何を飲み込んだのだろう。

これはこれで最低ですけども