知ることもないじゃない

いつだって必死だったように思える。
何に、それは一体何に。
生きる事にだ。
生きていけない事もないだろう、
何もかもが溢れかえっているこんな世界。
楽観視も出来るし悲観も出来る。
それがもし仮にガクソにより用意された桃源郷だったとしてもだ。
完璧なまでにコーディネイトされた揺るぎ無い世界。
何らかの弾みで偶然にも抜け出す事の出来た
そのまま雑踏に紛れ込んだ。
学生にはなれなかった。




「目、閉じてよ弖虎」
「んだよ、」
「前髪切ったげる」
「はぁ〜〜!?」
「あたし髪短い奴が好きなのよ」
「知らね〜よ」

抜け出したこの男と再会したのは少し前の事だ。
背が伸び男らしくなった弖虎は相変わらずで―
少しだけ大人びたかも知れない。
果てなく吐き出されていた悪態は影を潜め口数さえ減る。
は髪きり用の鋏でもない普通の鋏で弖虎の髪を切る。

「お前さぁ、何やってたんだよ」
「え?」
「今まで」

確かあの時を逃がしたのは渡久地だったと思う。
逃がした、その言い方はまったく適切ではない。
自分の駒を握る為に手助けをしたまでだ、その渡久地も今はいない。
渡久地が養っているとは思わなかったが監視くらいはしているだろうと、
その後はどうしていたのだろうか。あしながおじさんに娘は惚れる。

「別にぃ・・・普通」
「あ〜そう、あ〜そう」
「・・・渡久地君も死んじゃったし」
「あ〜ね」
「信二も」
「だな、知ってる知ってる」
「あんたしかもういない」

だからこうやってんの、
はそう言い髪を切る。
必ず別れが訪れるのだと無理に教え込まれ
悲しまないようにと努力を続けた。何故生きている。

「・・・・・・・・・あんたさ、」
「つーかお前切り過ぎじゃね?」
「逃げよう」

一緒に逃げよう、
僅かに震えたの指先は鋏を握っている。

「どこに」
「あんたが逃げれないトコ」

そこでずっと一緒にいましょうよ、何の騒ぎもない平和な場所で、
ザクリ、毛の束が目の前を落下した。
弖虎は髪の落ちる様ばかりを見つめていた。

サイコにゃ男前ばっかいたね。。。過去形・・・