椿たちのささめごと

畜生。腹が立つ。許せない。何を。分かっている。
全て分かった振りをして全て適当にやり過ごすのだ。
深く考える素振りで考える事なんて無駄だと諦める。
そうこうしている内に考える行為自体を放棄してしまう。
人は面倒くさがりな生き物だから。
何もかも全てを簡略化してしまおうと目論むものだから。
全体的にショートカット思想。それが悪いとは思わない。

「何やってんだお前」
「壊してんのよ。腹が立って仕様がないわ」
「無駄な事やるなぁ、おい」
「どいつもこいつも、どいつもこいつも!!」
「止せよ。見苦しいぜ」

西園はそう言いわざとらしくおどけてみせる。
が壊し続けているのはバーコードだ。
詳しくはバーコードの記された眼球を持つコピー達。
自身の眼球にもバーコードが記されているにも拘らずに。
同種を捜し求める奴らに嫌気が差したのだろうか。どうなのだろう。
兎も角西園はそんなの悪癖に少々嫌気が差しはじめた。
だからといって止める気はない。

「・・・悲しくなるわ」
「は!お前が」
「あんたはあたしを置いて行かないわよね」
「仲間、じゃねェぜ。俺はな」
「みんな一人ぼっちよ。あたしもあんたも、あの女も」
「俺が死んでもどの道お前の大好きなコピーが出て来るし、」

俺がコピーかも知れねェだろうが。
そう言った西園の顔をぼんやりと見つめた
真実に近づき始めた目前の男に何も言えず俯いた。
真実を知った自分は本物を殺し逃げ出したが西園はどうするのだろう。
そもそもどこにも本物なんて存在しないのにと呟いた
嫌に冷え込んだ窓の外を見つめる。

「新しい時代に変わるわね」
「年寄りは消えちまうもんだ」
「悔しい」

きっとそれが何よりの本音だと思った。

そういえば西園伸二は既に死んでいた件について。
いや、好きだったんだよ・・・。弖虎を書くつもりが。