残された海

そう。そこにいたのだ。
ずっとそこにいて、
恐らくは雨の日も風の日も荒ぶる日も痛み伏した日にさえ。
それでいて気づく事の出来なかった己に苛立ちさえ覚えた。
もう全てが遅すぎる。
急いては事を仕損じる―そんな言葉がいつまでたっても消えやしない。

「―ねェ、鉄生」

黒い群れが姿を消すのを待っていた
ゆっくりとそこに近づき他愛もない闇を見つめる。
闇を恐れたのは引き込む力が強いからであり、
はいつだってそれから逃げ回っていた。
そんな折光を纏ったあの男は闇を遠ざけたのだというのに。
あんなにまで。

「ねェ、鉄生」

一人呟く。いつまでも呟く。
置いていかれた事実はこれから先、色濃く印を残すのだろう。
その闇に勝とうだなんて思わない。到底思えはしない。
それなのに今、現に目前に広がる闇はさほど恐ろしくなく、
はもう一度、鉄生、そう呟き飲み込んだ。


(いまいちどあいたい)

単行本派のあたしにとって最新刊は衝撃の一言でした。
思わず半年振りくらいに弟とメールしちゃったよ!
鉄生の話をこういう形で書く事となり大変遺憾です・・・
もっと早く色々書いとけばよかった。