鍵を運ぶ人々

血塗れのこの男を目にした
又かと諦めそうして溜息を吐き出した。
同じ事を繰り返すという時点で学ぶ気がないのだろう。
そのくらいは理解出来るのだが問題なのは元々頭がいい癖に学ばない点なのだ。
そもそもはバイト上がりで疲れきっているというのに
この男は体力を持て余し何をしているのだろう。
尚且つの部屋の前にもたれかかっているという事は何を意味するというのか。

「・・・メシならないわよ」
「腹、減った」
「本っ当もう・・・勘弁してよ和」
「そんな。言うなって」

笑った黒澤の頭を軽く小突いた
部屋の鍵を取り出すまでにバック内を全て曝け出す羽目になり、
相変わらずの光景を目にした黒澤は痛みを堪え少しだけ笑った。


学生なんて最近は目にするだけの生き物と化していたのに
何の因果かここ最近学生が身近になっている。
のバイト先であるショップに顔を見せていた黒澤に
ついつい話しかけてしまったのが発端だ。
のバイト先は少々値の張る
(しかしそれは社会人の感覚からしてみれば安いものなのかも知れない)
小物や古着のアメカジを扱う店だ。
そこに大体週イチのペース、一人でふらりと現れるのが黒澤だった。
オーナーは黒澤とよく話をしていたようだ。
という事はがここにバイトとして入る前―
少なくとも半年以上前にはここに訪れていた事となる。
その日はたまたまオーナーが古着の仕入れにアメリカへ飛んでおり
だけが店にいた。
最初に声をかけたのは黒澤の方だった。
オーナーの所在を尋ねてきた黒澤には詳細を告げ有線の表に視線を戻す。

「・・・」
「何?まだ何か聞きたい事あんの?」

何故この子―こんな言い方になってしまった己が悲しすぎる。
恐らく鈴蘭の生徒だ。
偶然にもこの街へ来てしまったも少なからず驚いた。
只子供は子供だと思え係わり合いになる事もなく今に至る。
この店を訪れる客の大半はそういう類だし
オーナーも元は鈴蘭の生徒だったらしい。
まあどの道自分には関係のない世界の話だと思う。
それにしてもの予想が正しければ
未だ学生であろう目前の男の顔には何故傷があるのだろう。

「あんた、ここの人じゃねェだろ」
「え?何で?」
「喋りが、何か」

それが最初の会話だ。仕事抜きの。
それから黒澤は珍しく毎日―オーナーが帰国するまでの間、毎日店を訪れた。


「―で?」
「あ〜ちっと寝るぜ」
「寝るぜ、じゃない」
「身体、痛ェ」

結局コンビニまで向かい消毒液や包帯を調達してきた
何かを作る気にもなれずついでに買ったオニギリを黒澤に投げた。
コンビニかよ、等と呟いた黒澤はそれでも封を開け
オニギリを腹に収め上記の台詞に落ち着くわけだ。

「何度目よ」
「何が」
「こういうの」

バンダナから覗く目が少しの間を見上げ答える事なく閉じられる。
女の家に転がり込んでいる現状をものともせず
只惰眠を貪るこの男は何を考えているのだろうか。
そう思いながらも一つしかないベッドに寝てしまう自分もどうかと思いつつ
は明かりを消す。
目を閉じず天井ばかりを見つめるの隣、
こちらに背を向けている黒澤が目を閉じているのかは分からない。

あたし頑張ったよ!(詳細は日記にて)
っていうかあの・・・あたしは九里虎が好きなのに!!
な、何故黒澤ばかり書いてしまうのか・・・
何の因果だ・・・