バッドシスタア

「は?マジかよ」

携帯を取り真っ先に口にした言葉がそれであり
その後秀吉はそそくさと帰った。
どこ行くんだよ、マサがそう聞けば家に帰るという。
何かあったのか、そう聞けば珍しくはっきりしない口調だったから
マサはそれ以上何も聞かなかった。


だってあいつふざけてんのよしょうがないじゃない、
ねえ秀、あんたまであたしを責めるの?
あんたはあたしを責めやしないわよね、もうあんたしかいないのよ。
あたしこんなに傷付けられたの初めてよ
こんなに馬鹿にされたの初めてよ。だから。

家に戻れば母親が玄関で右往左往していた。
家の中からは何かが破壊される音が延々と続いている、
それを見れば又あの迷惑な女が戻って来たのだろうと。
問題を起こせば戻って来る。
そうして一週間ほど滞在して何事もなかったかのように帰って行く。

「今度は何だよ」
「もう知らないわ、あんた止めてきて」
「又かよ・・・」

大きな溜息を吐き出し秀吉は玄関に入る。
グラスが飛んできた、壁にぶつかり粉々に砕けた。

!!いい加減にしやがれ!!」
「秀!?」

音がいっせいに止み奥のリビングから小柄な女が姿を現す。
涙でぐちゃぐちゃの顔を晒した実姉、
が秀吉の顔を見るなり又泣いた。
秀吉は又大きな溜息を吐き出した。


丁度三ヶ月前にも同じような事があった。
あの時長い髪をオレンジに染めていた
今漆黒の髪を短く切っている。 荒れ果てたリビング内を土足で闊歩する
ソファーに座らせた秀吉はが泣き止むのを待っていた。
前回は何だった。
確か前回は二日くらい警察に拘留されていた。火をつけて。

「・・・今度は何だよ」
「だってね、秀ちゃん」

あの馬鹿こんな事言うのよ、
何か風邪ひいたみたいだから今日は会えないって。
しかもメールで。許せるわけないじゃない、
はそう言い携帯を見せた。
左腕に見慣れないタトゥーが入っている。
秀吉はあえてそれに気づかないフリをした。
自分より三つ年上の姉は粗暴だ。そうして男運が極めて悪い。
というかろくでもない野郎にばかり惹かれている。
きっとが呼び寄せているんだと秀吉は思う。やはり口には出さない。

「いい加減成長しろ馬鹿」

毎回毎回家壊されちゃたまんねーんだよ、
率直な意見はそれだ。
が高校の頃男に殴られたと顔を腫らし帰って来た事があった。
その時は何事もないような顔をしていたし無論泣いてもいなかった。
秀吉はを殴った男を殴った。何も言わず喧嘩の様子で。

「うん。ごめん」
「部屋片付けんぞ」
「うん」
「ったく・・・」

外では母親がご近所さんに
つい先ほどまでの騒ぎを無理な嘘で隠し通している事だろう。
割れたガラスを集めながら秀吉は最後にもう一つ大きな溜息を吐き出した。


「じゃーね。バイバイ」
「・・・お前折ったんだろ、相手の腕」
「うん」
「報復とか来んじゃねーの」
「何?心配してくれてるの秀」
「・・・まーな」
「じゃあ助けに来てよ」

あたしが助けてってメールしたら速攻で助けに来てよ、
馬鹿な姉はそう言い手を振る。 そうしてミニに乗り込むとこの街を出て行った。

「・・・・はぁ」

何ともいえない疲労を感じた秀吉は
煙草を取り出し車を見送るついでに座り込む。
そうして何の因果であんな姉になってしまったのだろうと思った。

秀吉に世話をやいてほしかったと思われます。
もう末期には違いありませんね。