頭蓋骨の歌

その日は朝から何かが確実におかしかったのだ。
朝イチに目覚めた時点で窓ガラスの向こう側には
幾羽ものカラスがこちらに向かい鎮座していたり
(は速攻でカーテンを閉めた)
バイトに行く直前になり
鍵をどこに置いたのか分からなくなり危うく遅刻しかけたり、
バイトに行ったら行ったで背の低い奇妙な男に付回されたり
ヒステリックな中年の女に頭から水をかけられたり。
これはまさに踏んだり蹴ったりだと笑ったに対し
バイト先の人間は本気で不安がったりしたものだ。
そんな日中を終えそのまま家に帰るか
こんな日だからこそ遊んで帰るかを悩みに悩んだ結果帰る決断を選ぶ。
今日は二度と家から出ないと心に決めたは家に戻り寝る事にした。
それが丁度19時の出来事。




けたたましいインターフォンの連打音では飛び起きる羽目になった。
突然のそれに心臓ばかりがドキドキと高鳴っている。
携帯に目を落とせば時刻は2時過ぎ。
こんな時間帯の訪問者に限りろくな相手ではないだろう。
だからといって無視を決め込もうとしても連打は未だやまず。
おそるおそるドアへ近づきスコープから外を覗く。
そうしては大きな大きな溜息を吐き出した。
チェーンロックをしたままドアを開け外にいる人物を見る。
強いアルコール臭が漂った。

「な・・・何?」
「よぉ
「何なの十三・・・」

四代目武装戦線副頭村田十三―肩書きといえばそれだ。
しかしそれもまあ今は昔の話であり、
とっくに引退している十三同様も既に学生ではない。
携帯にメモリーは入っているが頻繁に連絡を取り合う事もない間柄だ。
だから尚更驚いた。

「ちょっとこいつ、預かってくんねェか」
「こいつ?っていうかあの・・・何なの?」
「悪ぃな

この男がまだ現役の頃に話は遡る。
例に漏れず遊びまわっていたはひょんな事からこの男と知り合った。
頭が余り宜しくなかったからか感覚が麻痺していたからかは分からないが
恐ろしさを知らなかった昔の自分は武装戦線の男を見ても特に何も思わず
只ライダースは格好いいなあなどと間の抜けた感想を抱いていた。
寡黙な十三はよく喋るを余りよく思っていなかっただろう。
しかしそれは十三以上に龍信がそうだったろう。
それでも歩くトラブルメイカーと呼ばれていた
(それは未だに変わっていない)
モノの見事に十三らの前でトラブルに巻き込まれ
否応なしに助けざるを得なくなる状況が出来上がる。
男に殴られようとも食ってかかるを持て余しながらも
頑として筋を曲げないその姿勢だけは認めていたらしい。
そんながなりを潜めたのは高校卒業を控えた時期の事だった。
まったく噂を聞かなくなり姿も見えなくなった
少しだけ気にかけていたものの
あえて足取りを追う気にもなれず時期は過ぎ去る。
再会は半年後。深夜のファミレスで普通に出くわした。

「開けねェんならここに置いてくぜ」
「なっ、何を!?」
「頼んだ」

ドサリと嫌な音がし十三が去っていく。
思わずドアを開けようとしても
何か硬いものにぶつかり簡単には開かなかった。
カツンカツンと階段を降りる足音が遠ざかり
すっかり十三の影がなくなってしまった時にドアは開いたのだ。

「・・・・・・」

そうしてドアの前にはライダースを羽織った男が捨てられていた。
武装戦線。その四文字と髑髏を背に負ったまま。

突然過ぎる・・・!十三を出したかったのです。
そうして不自然な前後編。煩悩って恐え。
っていうか主人公、何歳だ。