頭蓋骨の歌 2

『ちょっと!!何置いてってんの!?』
『何って・・・将五だ』
『将五だ。じゃないっつーの!何で!?何この嫌がらせ!!』

泥酔した将五からは物凄いアルコール臭が漂っており
はどうにかその図体を部屋の中まで引き摺ったのだ。
何故ならば意識さえ明確でなかったから。

『急性アル中とかじゃないの!?死んだとかやめてよね!!』
『そのくれェじゃなんねェよ・・・単に潰れただけだろ』
『あのさ・・・あの・・・又!?』
『仕方ねェだろ。お前の家が丁度いいトコにあるのが悪ぃ』
『これ、明日朝イチに取りに来てよね!!』

キンキンとした怒鳴り声を苦笑で返した十三は
単車の音を響かせたまま携帯を切った。
だからの耳の奥には暫く耳鳴りが潜んでいたがそれもすぐに消される。
潰れてしまったと思っていた将五が立ち上がっていたからだ。
十三の弟である将五とは以前幾度か顔を合わせていた。
酷く礼儀正しいというのが第一印象であり、
十三と絡むの事をヒキ気味に見ていた覚えがある。

「スンマセン・・・」
「いや、いいよ。ってかあんた大丈夫なの?」
「本当・・・スイマセン」
「ほら!無理して立つなって・・・ほらー!!」

帰ります、だとか何だとか呟き
一歩前に踏み出した将五の身体がゆっくりと傾きかけ、
それに気づいたが体格差など考えず
身を乗り出した時点で間違いは完結していたのだ。
階下の人間から怒鳴られそうなほど大きな音を立て崩れ落ちる。
将五の身体は重かった。

「・・・」
「!」
「痛ェよ将五・・・」
「ス、スイマ・・・!」

はたと気づく。これは。
将五にしろにしろ同時に違う思考を抱いていた。
は曖昧な感情を、将五は―




約五時間前―
「お前本当浮いた話ねェな」
「いや、そんな事ないですよ」
「いやいやねェじゃん、皆無じゃん。女っ気がねェっつーのか」
十三達の飲み会の席に呼ばれた将五は酒の進んだ先輩方に絡まれる。
そんな予想はついていたのだから余り同席したくない場だったのだ。
それでも何故だか今回ばかりは
十三がわざわざ携帯で呼び出しをかけたものだから
仕方なしに同席した。

「まあ、今日は飲めや将五」
「・・・」
「水割り十追加―!」

十三は何も言わず只々将五に酒を勧めてくる。
断る事も出来ず淡々とグラスを開ける将五は徐々に、
しかし確実に自身を蝕んでゆくアルコールの脅威を感じつつ
何故だか手を止める事が出来なかった。
途中で、そうだあれは確か視界が回転し始めた辺りだ。
十三にはとっくに知れていたのかも知れないと思った。
随分前のように感じる、
十三が現役だった頃―まだ将五がガキだった頃
(それは今でも変わらないのかも知れないが気の持ちようだ)
十三に対し酷く高圧的に、尚且つ馴れ馴れしく話しかけている女を見た。
はっきりとした物言いで騒々しい女だった。荒れた毛先と光る目元。
それから暫くし、街中でたまたま十三と彼女が歩いている姿を目にした。
髪の色が落ち着き化粧も薄くなっていたから最初は分からなかった。
次はいつだ。いつだったのか。

「お〜〜い将五〜〜」
「そろそろだな」
「意外と強ェのな、酒」

だからといって特別な感情を抱いているだとか、
そんな事を考えた試しはなかった。




だから今この尋常でない体勢でも彼女が素振りさえ見せなければ
何事もなかったように振舞える自信が将五にはあったのだ。
じっと見上げるの視線さえ受け流しスイマセンと笑い―

「どうした?」
何事もなかったように振舞える自信はあったのだ。
そうしてそうする隙間もあった。それだけは間違いない。

「将五」

だから何事もなかったように振舞える自信はあったのだ。

こんな話をバイト中に考え付いたあたしはどうにかしているよ。
・・・夢ってよく言ったもんだ。眠らず夢を見る女ここに見参。