夢より残酷な







久しぶりの休みの日だというのに、
生憎のゲリラ豪雨に遭遇してしまった。
何の前触れもなく、目の前が見えなくなるほどの
激しい雨を降らせるこの現象は、あの男に似ている。
そんな事を考えてしまうだなんて、よほどの状態だよと自嘲した。


久しぶりの休みを一人、
家で終わらせるのはもうやめようと考え、
新しい靴をおろし街へ繰り出せばこの有様だ。
こんな状態で唯一の救いは、
行きつけの喫茶店がすぐそこにあった事。
急いで駆け込めば、遭遇するのもレアなオーナーがいて驚いた。
今日の私は果たして、ついているのかいないのか。


「これは、様。すぐにタオルをお持ちして」
「や、大丈夫ですよ…それよりオーナー、随分お久しぶりですね」


ここの喫茶店はオーナーの教育が行き届いており、
接客レベルが異常な程高い。
コーヒーの味は独特というか…個性的らしいとの噂だ。
元来コーヒーが苦手な為、ここで頼むものは基本的に紅茶になる。


「アールグレイで宜しいですか?」
「あ、お願いします」


オーナーから渡されたタオルは
とても柔らかく、優しい香りがした。
髪の毛の雨粒を吸わせながら
目の前が真っ白になるほど激しい雨を窓越しに見つめる。


こうして日がな自分を騙し騙し生きていく。
誰かに会っていれば考え込む時間もなくなるし、
とりあえず泣かなくて済む。
無駄な時間を潰す事が目的になっている。
彼の事を思い出すような事、全てから逃げ、
ぐったりと身体が疲れ切るまで動き回る。
そして眠りに落ちる寸前、知っている孤独に襲われるのだ。


「…お痩せになりましたか?」
「ええー?そうですか?」


最近忙しいからかな。
曖昧に話をはぐらかし、温かい紅茶で身体を温める。
オーナーはそれ以上詮索をせず、
雨が止むまでの小一時間をここで過ごした。









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「みなさん、もう出て来ても宜しいですよ」


が店を出て数分後、
オーナーである夜行妃古壱が口を開くと、
店の奥からゾロゾロと男たちが出てきた。
到底、この執事喫茶には相応しくないいで立ちの男どもだ。


「何も、隠れる必要があったのかね…」
「当然でしょう」
「客って事でいいじゃねェか」
「お客様が畏怖されます故」」
「何でだよ」


大人しくしとくぜ、なぁ?
伽羅に話を振られた梶はすっと視線を逸らす。
匿われている分際で文句は言えないわけだ。
自分たちが急に来たもので、
どうやら店は閉めるつもりだったのだろう。
が、しかし。
寸でのところで客が入ってきた。


「あ、片付け手伝います」
「いえ、梶様。お気持ちだけで結構」
「あ、はい…」


カップの縁がほんのりと赤くなっている。
客は女性だったようだ。


「常連の方だったんですか?」
「…えぇ。随分昔から贔屓にしてくださってる方でしてね。
 口にはされませんが、ロクでもない男に
 振り回されてらっしゃいまして…
 お痩せになった姿を見るのは辛うございます」


何故そんな事まで知っているんだと
思いつつも話を聞いてしまう。


曰く、件の男とは至極身勝手な男で、
彼女を置き去りにしたまま行方を晦ましているだとか、
それでも彼女はその男を待ち続けているのだとか、
そういう内容だ。


このまま逃げ回っていれば
自分もそうなるんじゃないかとゾッとしたが、
生憎自分には待っててくれる女もいない為、余り問題はなかった。
恐らくカールさんもそうで、伽羅さんも―――――


「おや?伽羅がいませんね」
「えっ?」
「彼なら、先程出て行ったよ」
「えっ!?」
「そこに置いてあったタオルを触ってすぐに」


伽羅がいない時に、
タイミングよく襲われたらどうしようと思ったが、
ここは夜行の店だ。
最悪、夜行に守ってもらえないだろうか…。
不安げな顔で夜行を見るも、
彼は無表情のままゆっくりと首を振っていた。








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彼と出会ったのはこんな雨上がりの日だった。
だから、こんな日はもう打つ手がない。
だから、辛うじて彼の面影が残る自室で
非生産的な時間を過ごすか、
幾度目か分からない無駄な祈りをするかだ。
あのドアを開けて彼が戻って来ますように。
当然そんな願いは叶わない。
もう、期待するのも疲れた。


感情が一気に高ぶり、
まるでその事しか考えられなくなる。
あのゲリラ豪雨と同じ。一過性の激動。
夢の中で出会う事さえ恐ろしく、目覚めの恐怖を克服出来ない。


結局今日という休みを
無駄にしてしまったと嘆きつつ岐路についたは、
エントランスを抜け通路を歩く。
この岐路もそういえば思い出で、
そろそろ引っ越しも視野に入れなければならないのかも知れない。
そんな事を考えていればだ。
少し奥まった場所にある自室の影に人影が見えた。
ような気がした。


「まだここにいたんだな」
「伽羅」


だから、こうして一過性の感情の波が心を侵し、
他の何も考える事が出来なくなる。
こんなものは奇跡でも夢でも何でもない。
今、実際に触れる事の出来る
待ち侘びた男の胸に飛び込みながら、
明日の朝、私は一人きりで目覚めるのだ。





初伽羅(メイン)です
初夜行Aです
初梶ちゃんです
初カールです
どうしても執事喫茶 百鬼夜行を出したくて。。。

伽羅さんは優しい男なので、
彼女に危害が加えられる可能性を考え
特定の子は作らないような気がするのですが、
それじゃ話にならないのでこのような、、、
このようなかわいそうなヒロインが出来上がったのだ
命は助かるが心は助からないという、
伽羅のあずかり知らない話です

因みにこの後戻ってきた伽羅を見て、
ヒロインが待ちわびているロクでもない男とはコイツだ!
と察する夜行Aが 説教をかます、
というところまで妄想は進んでいます

2015/09/13

NEO HIMEISM