僕のかわいい人








首を絞められ息が切れる寸前に目が覚める。
とっくに奪われた心の入れ物なのだ。
この数年続く異常気象により、
一週間ほど熱帯夜が続いているというのに、
どうにもこのエアコンというものが好きになれず、
窓を開けて寝ている。
部屋はタワーマンションの最上階。
防犯上問題はないはずだ。


息苦しく魘され目覚める。
全身がじっとりと汗ばみ、
シーツが身体に張り付いていた。


「…ぁ」
「ようやく起きたか」
「な、に」
「後五秒で死んでたぞ、


首を絞められていたのは夢ではなく現実だったようで、
薄暗い室内に撻器の姿が見えた。何故ここに。


「お…屋形様、どうして」
「お前に会いにさ」


俺の可愛いお前に。
全て知られていたと察するに十分な時間だ。
瞬時に判断し、それに気づいていない選択肢を選ぶ。
御屋形様である切間撻器が直々においでなさったのだ。
事は一大事以上の重要性を持つ。


「自宅療養中と聞いたが、具合はどうだ〜〜?うん?」
「…大分、良くなりました」
「ふうん…そうか?
 薄暗くてお前の顔がよく見えん。こっちへ来い」
「…」
「いや、俺が行こう」


ギシ、とベッドが軋み撻器が近づく。
両手足を使い、まるで獣が獲物を狙うかのようだ。
すぐに鼻先にまで近づく。


「…ふうん…」


視線を逸らす事は出来ない。
それだけは決して。
だけれど射貫かれる。
目前の男は私の全てで、
本来ならばこんな私が近くにいるべき相手ではない。








■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■








両親を事故で亡くした際、混乱に乗じ浚われた。
目が覚めると見知らぬ白い部屋にいて、
それまでの記憶が一切失われていたのだ。
自分の名前さえも分からない状態で傷だらけの身体を癒す。
その白い施設はその国の諜報機関の研究室であり、
研究対象として育てられる事となった。
その頃の記憶も随分曖昧だ。
様々な薬物を投与され、ありとあらゆる痛みを与えられた。


「どうした?。あまり顔色がよくないぞ」
「いえ…」


同じようにモルモットとして
生かされていた子供たちが続々と死にゆく中、
奇跡的に生き延びたは、諜報員として生きていく事となる。


「動悸も激しいなぁ…」


撻器の指先が胸の間から喉元まで滑る。
体内に鳴り響く心臓の音が今にも破裂しそうだ。
染みついた欲望が期待を募らせ疼き出すのが分かる。
見るだけで焦がれるその指、寸前まで近づいた肌。
この肌を、髪を全てを守る為生きている。


「どうした」


何も返す事が出来なかったは、
そのまま重ねられる唇の感触で辛うじて意識を保っていた。








■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■








『賭朗』の噂を聞いた事はあったが、
諜報員である自身には関係のない組織だと考えていた。
諜報員であるの仕事は、
他国の企業に入り込み重要な情報を得る事―――――
民営や国営は問わない。
あの機関はその為に様々な人種の子供を浚っていた。


『賭朗』の立会人と呼ばれる黒服の男に初めて遭遇した時、
は人を殺していた。


『ザアザアと雨ばかりがよく降る』


この国の特色が嫌いだった。
雨の日は気が滅入る、酷く頭が痛む。
殺した男が賭朗の会員であり、
たまたま勝負の最中だった事もあり、
専属の立会人と戦う事となったは、
その日二回目の殺しを行う事となる。
想定外の殺しに少しだけ辟易とした。
ずぶ濡れの状態で立ち上がる。
男がいた。


『…』
『ぐはぁっ』


気に入った。
男は笑ったように見えた。


『よし、女。ここで一つ賭けをしよう』
『…』
『俺に勝つ事が出来れば逃がしてやる。俺に負けたら―――――』


言い終わる前に一突き踏み込み、
寸でのところで避けたを愛おしそうに見つめる。
避けた瞬間、勝つ事は出来ないと分かった。
どう足掻いても勝つ事は出来ない。
では、逃げる事はどうか。
二度目の蹴りは避ける事さえ出来ず、
勢いを左に流すに留まる。喀血。


『お前は俺のものになれ』


耳側で囁かれた。








■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■








『俺のものになれ』という言葉の意味は、
その後すぐに分かった。
男は『賭朗』のお屋形様と呼ばれる人物だったのだ。
の素性もすぐに洗われ、
どんな手を使ったのかは分からないが
諜報機関から完全に引き抜いた。
その事実を知り、『賭朗』という組織の恐ろしさを知った。
まず最初に施されたのはICチップの除去手術。
埋め込まれていた事さえ知らなかった。


「…た、つき様」


それからすぐにお屋形様付きとして
『賭朗』に所属する事となったに、
撻器は大変目をかけた。
これまで一度として感じた事の無かった
その優しさのようなものに魅了され、生きる楽しさを知った。
身も心も、全てを捧げ守る。
この身体が朽ちるまで―――――


均衡が崩されたのは
古い知り合いが接触を図ってきた半月前になる。
その男はの姿を目にし嗤った。
哀れな女だと。


「…っ」
「可愛い、ああ、可愛いぞ、
「た、つ」


お前が命を賭けて守っているその男は、
お前の両親を殺した男だぞ。
哀れな女だな、
親を殺され、
我が機関でモルモットとして育成され―――――
親の仇の命を守る為に生きているとは。


撻器様―――――
あの男のいう事が真実かどうかは分からない。
過去の記憶などとうに失せ、両親の記憶もない。
男が提示したUSBはテーブルの上にある。
中身は、両親の事故の記事とそれに関するデータだった。


「…なぁ、
「は、い」
「何があろうと、お前は俺のものだ」


多少なりとも興奮を帯びた口調で撻器はそう言い、
ベロリと耳を舐める。
そう。逃げ出す事も出来ず、
こうして身を弄られているのだ。


触れられる側から愛おしさが溢れ出し、
とっくに身も心も奪われていたのだと、知っていた。






どうやら私は撻器様がとても好きなようだ。。。
と今更ですが気づきました
私の推しメンは今のところ撻器様です
よろしくな!

昔からオッサンスキーとか言ってたんですが
下手したらそれって10年前とかで、
そりゃ私もオッサンスキーから
オジイサンスキーになるわと
そんな事があってたまるか。。。
嘘喰いってマンガは本当に素敵な初老が多すぎて困る

それにしたって撻器さま(推しメン)ですわ
≪強い奴が好きだが自分より好きなやつは死ぬほど嫌い≫
っていう性格が好きすぎるよ…

あ、そういう話です

2015/09/13

NEO HIMEISM