傷つかない恋








見るからに罠だと思える女に出会ったのは
偶然だったのだろうか。
生来、偶然だなんて曖昧な定義は信じていないし、
恐らくあれは偶然ではなかった。
物事には必ず理由が存在し、そこに事象が生じる。
この世の仕組みなんてとっくに知っているつもりだ。


そもそもが目の前に目を引く女が
登場するだなんて不自然極まりない。
自分のような男の目の前に。
匠はそう考える。


あの女―――――
とのファーストコンタクトは
とある政治家の資金集めパーティ。
モデル崩れの女たちがパトロン探しにせいを出している中、
真っ赤なドレスを着たは、
当の政治家の隣で微笑んでいた。


皆が先生と呼ぶその男の素性を知っている匠は、
相変わらず吐き気のする場面だ、
だなんて悪態を腹の中で吐きながら辺りを見回す。
当然ながらこの主催者も敵は多い。
こういった華やかな空間は苦手だ。


「…」


どこにいても視線を感じ、振り返る。
男の背越しに赤いドレスがチラつく。
最初は気のせいだと思った。
この空間にはこれだけの人間が存在するのだ。


「…」


だけれど気になる。
後頭部に視線が突き刺さる。
何か用かと聞いてやろうかと、踏み出した瞬間だ。
右手を掴まれ、掌に何かを捻じ込まれる。
驚いて振り返る。赤いドレス。
掌に捻じ込まれたのは携帯番号が書かれた小さなメモで、
こんな罠じみた展開はそうないぜと笑った。











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どうして電話をくれないのよ、
と白い服に変わったが声をかけてきたのは、
それから半月後の事だった。


最寄り駅の側、行きつけのカフェ横に
付けられた車の中から声をかけられた。
声をかけられてすぐに気づいたが、
誰だか分からない振りをする。
我ながら、卑怯なやり口だ。


「誰だっけ…?」
「何?そういう手口なの?」


だからこれは確実に罠だ。
鷹さんが見れば馬鹿じゃないのかと一蹴されるだろう。
まんまと罠に嵌る馬鹿がどこにいると。


「これ、君の?」
「…乗ってく?」


どこまで連れてくの?なんて
間抜けな事を口走りながら乗り込む。
これは完全に罠に飛び込んだ形。
大丈夫、万が一の事があっても、
自分でどうにか出来る程度の技量は持っている予定。


がギアを入れた。
グン、と軽い重力に押し潰されながら車は走り出した。









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そう。
そしてその日から罠は大きく口を広げ、
匠を飲み込み始めた。
とても心地よい毒。
こんな感覚、随分忘れていたなと思ってしまったのは、
ディナーの約束をして、その店を予約している時。
はたと気づく。
俺は一体何をしているんだ?
頭の中で警報が鳴り響く。


それなのにちょっとお高いホテルの予約まで完了。
そうして今、そのホテルの一室で抱き合い、
満を持しての局面を迎える。
こんな、とんとん拍子に堕ちるわけが、


「…ちょっと」
「…」
「何で、何もしてこないのよ」
「…俺は」


賭朗の人間とは寝ない主義なんだ。
告げた瞬間のの顔。
瞳孔が僅かに開き、まるで悪戯がばれた子供の様にはにかむ。


そう。その顔が見たかった。
もう一度ぎゅっと抱き締め囁く。


「目的は?」
「そんなのないわ」
「お前たちがそんな無駄な真似、するわけないだろ」
「いくじなしね」
「あぁ」


俺は臆病なんだ。
こんな部屋でジクジクと腹を探り合う。
据え膳食わぬは男の恥って言うでしょう、
そう言われても決して翻さない。


ホテルのカギをテーブルに置き、そのまま部屋を出る。
こんな結末が俺にはお似合いだ。


「匠」
「…何だよ」
「愛してるわ」
「…」


やれやれ、そうため息を吐き、
振り返らずに一言、嘘つきだな、そう呟いた。






課長を書きたくて書いてたんですけど、
こういう恰好いい女か若い女かで悩んで、
とりあえずこっちをセレクトしてみました
立会人ヒロイン
課長は美人と並んでいればいいよ!

こういう女々しいというかウジウジしてる課長
可愛い可愛いよ課長
だけど流石、密葬課課長(元)危険な匂いには敏感、
擦れ擦れのライン以降は飛び込まないぜ!

主食がアレじゃなきゃ絶対もっとモテてる

2015/09/15

NEO HIMEISM