その日、棟耶将輝は悩んでいた。
自分の直属の部下であるの事だ。
ゆくゆくは立会人になるべく能輪がスカウトしてきた女で、
前職は少女兵―――――


調査によると、彼女の父親は商社で働いており、
五歳の頃、仕事の関係で中東に移住した。
そしてその先で殺された。
表向きは強盗による殺人だと報道されたが、
実際は現地ゲリラによる報復だったと言われている。
両親の凄惨な遺体は家の中で発見されたが、
の姿は確認されなかった。
政情が不安定なその国で彼女は姿を消したのだ。


その商社と関わり合いがあった能輪は
現地へ出向き、現場を確認した。
現地警察はほぼ機能しておらず、
調査は依然として進んではいなかった。
無数の足跡、粗雑な殺し方。
犯人は現地ゲリラだろうと容易に予想出来た。
それならば娘が消えたのも納得出来る。
兵士として育成する為、連れていかれたのだ。


この事件はそこで終わっていた、はずだった。
それから10年余りが経過した頃、とある噂が能輪の耳に入る。


『日本人と思わしき女が中東で暴れまわっている―――――』


まさかと思い再度その国へ飛んだ。
あの頃と違い、
完全にゲリラ側が政権を奪取したその国は退廃が進み、
文明は失われつつあった。
完全なる暴力が国を支配し、秩序もなく文化もない。
人々は力のみに魅せられ、そうして崇拝した。
一人の女を。


「儂に何の用じゃ、判事」
「…の事なのですが」
「!」
「一つ気になる事があります」


女はその国をほぼ手中に収めていた。
表向きはゲリラの大将を祭り上げ、
その実、実態は女が握っている。
能輪はその女に会うべく、ゲリラ側と交渉を続けた。
その期間、約一年半。
十二分に慎重な女だった。


「…なるほどのぅ…」
「それを踏まえた上で『狩』を行おうと考えています」
「『狩』!!」
「はい…いかがお考えでしょう」


約一年半の根気が実り、
ようやく会談の場を設けるに至り、
どんな化け物が出て来るかと思えばだ。
通された部屋にいたのは、一人の少女だった。
年の頃は十代後半か。
少女は能輪を一瞥し、日本人かと聞いた。
日本語がまだ話せるのかと驚く。
少女は何も忘れてはいなかった。



そう、何もかもを覚えていたのだ。
あの日、現地ゲリラが自宅を襲い、
目の前で母親が犯され父親が殺される姿も覚えていたし、
父親の遺体の上で自身が犯された事も覚えていた。
そのままゲリラのアジトへ連れていかれ、
自分を犯した男の元で暮らす事になり、
そのまま少年、少女兵のキャンプに入れられる。
教えられた事、自分がやられた事、
見た事、聞いた事、全て覚えていた。


「親代わりである能輪立会人にお決め頂こうかと…」
「そうじゃのぅ…」


は言った。


『ここにはもう用がない』


彼女は全てを覚えていたし、
全てを許すつもりがなかった。
自分を犯した男も、両親を殺した奴らも全てを許さず、
その機会を虎視眈々と狙っていたのだ。
長い歳月をかけ。
そうして目的を達成した今、
この国の全ては手中に収めた。
だけれど、それは本分ではない。
目的は既に達成している。


能輪はすぐにこの女を手駒にしたいと決め、
賭朗へとスカウトする。
は快く了承し、後二日待てと告げた。


「儂は必要だと判断する」
「!」
「何じゃ?意外か?」
「多少」
「ククク…儂もお前も、通った道じゃとて」
「確かに」


二日後、燃え盛る街を背には登場した。
逃げ惑う人々、燃え盛る街。
それらを背景としても、彼女の笑顔はとても魅力的であり、
まさかこれまでゲリラとして戦ってきたとは思えないのだ。
草のような状態で10数年もよく
気が違えずに暮らしたものだと感心する。


唯一のネックは体躯の小ささ。
武器を使っての戦闘は称賛に値するし、
いざという時の判断力も群を抜いている。
様々な火器が使用出来、身体能力も文句はない。
しかし。


「燃える、でしょうな。皆」
「そうじゃろなぁ…」
「可愛い、ですから」
「そうじゃ」


圧倒的に可愛らしいのだ。
それがどちらに転ぶか分からず、
取りあえず棟耶に預け様子を伺う事にしたものの、
瞬く間に噂は広がった。
詳細は限られた人間にしか伝えていない為、
能輪が新しくスカウトしてきた女がとんでもなく可愛い、
というどうしようもない形の噂。
そんなものが駆け巡ったのだ。
賭朗始まって以来の一大事である。


それでもどうにか棟耶の元で
(やはりこの男に預けてよかったといえる)働く内に、
まあ、色々と問題点が浮かび上がってきた。


には私からそれとなく話をしておきますので」
「頼んだぞ、判事。儂は、計画を考えよう」
「お願いします」


を一人前の立会人にする為、
これは仕方のない出来事なのだ。












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「ねえねえ雄大くん、『狩』って知ってる?」
「…え?」
「いや、だから、『狩』。
 棟耶さんの説明、何かイマイチよく分かんなかったんだよね。
 何ていうか、賭朗に古くから伝わるものなんでしょ?」
「…」
「ねえ、聞いてる?」
「えっ?」
「何で聞いてないの?
 明日それやるらしいんだけどさ、
 あたしだけ知らないって嫌だなと思って先輩に聞いてるのに」
「えっ!?お前、出んの!?」
「え?うん。出なきゃダメなんでしょ?立会人になるには」
「…(判事がブラフを…?)」


思惑を探らなければならない思いと、
が『狩』に出る驚きとが交差し心がまるで静まらない。


「って、てか、お前、その事誰かに言うたんか?」
「え?いや、まだ。雄大くんにしか言ってないけど」
「絶対言うちゃいかんぞ」
「え?」
「絶対に、誰にも、言うちゃいかんけェのぉ!分かったな?」
「ちょっ、声が大きい…!」


何故か急にテンションの上がった門倉は
何度も何度も念押しする。
わかったと答えるはきっと何も分かっていないのだ。


そうして、この話を
から直接聞いたワシはマジでラッキー!
申し訳ねェが、俄然参加させてもらうけェのぅ!


普段なら絶対に奢ってくれないランチを
ご馳走してやると言い出した門倉に対し、
聊か不信感を抱きはしたものの、
気分が変わらない内に奢ってもらわなければと思い、
その話を終わらせた。











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そんな二人を見送る影が二つ―――――


「…い〜い事聞いちゃった」
「…」
「お前も満更じゃないんだろ、弥鱈立会人」
「…さぁ」
「『狩』やるとかマジかよ。超ラッキー」
「…あなたはそうやって祖父のオキニを潰して回ってるんですか」
「うるせェな。てか、は別だっつーの。
 あれは俺も割と気に入ってんだよ」
「はぁ」
「はぁ、って何だよ」
「私、余り他人に興味ないもので」


弥鱈はそう告げ、踵を返す。
猫背な後姿を見送りながら、


「興味ねェ奴がココにいるかよ」


そう呟いた。







つまり、要約すれば、





ようやくUPするに至りました!
忙しすぎて忙しすぎて気が狂うかと思ったある日思いついた
気の狂った謎の中編です
そもそもが人沢山出すの好きなものでとても楽しい
後、ここまでお読み頂いた方にお伝えしたいのですが、
ここからどんどんと妄想色&エロ要素が強くなります
ご注意を
と、ここまでがタイトルです


雄大くんの喋りがややこしすぎて、とりあえず
通常の会話は標準語
心の中は広島弁
テンション上がったら広島弁
に統一してます

そして、判事と能輪さん出せてよかった

2015/09/20

NEO HIMEISM