嘲るように歪んだ泣き顔








こんな所で何をしていやがると男は言った。
表情はよく見えない。
恐らく、呆れたような顔をしているのだろう。
随分と懐かしい声だと思ったが、振り向く事は出来なかった。
何故か。



「…聞いてるのか、おい」
「聞こえてるわ」
「だったら」



こっちを見ろと男は言う。
そうして腕を伸ばし、 の肩に手をかけた。
その瞬間、不必要にビクつく身体。



「…おい」
「…」
「何だ、お前…」



泣いてるのか。
男の指が肩から離れ、やけに気まずい沈黙が訪れる。
二の句を失ったスモーカーはやれやれ面倒な事になりやがった、
そんな表情で座り込んだ。
半ば崩れかけたこの部屋に葉巻の香りが充満する。



「…なぁ、 。何年振りだ?お前と会うのは」
「…」
「あの大戦以来だよな」
「…」
「何してた」



この男は過去を知っている。
こちらが引き摺る尽きた夢を。



「…何も」
「何もって事ァねェだろうよ」



エースを失ったあの日以来、 の人生は途切れた。
立ち直る事も出来ず、受けいる事も出来ず、とりあえず苦しんだ。
思い出すのはエースの悲惨な生き方だけで、
それらを思い出しのたうち回る。



元々海賊でいる必要もなかった為、海は捨てた。
いつでも戻って来いとマルコは言っていたし、
それ以降も幾度か様子を伺いに来ていたが、
中々立ち直れない を見て距離を保つ事にしたらしい。



色んな人に随分迷惑をかけたが、未だにこんな状態でいる。
生きていたくないと思っていた。



「白ひげはやめたのか、お前」
「海を捨てたのよ」
「後ろ盾がなくなったって事か。そいつは納得だな」
「だから、海軍に追われる筋合いはないわ」
「どこに行ってもこんな様なんだろ、お前」



死ぬ気かと言い、死ぬつもりなのかと続ける。
辺り一帯は瓦礫の山、その瓦礫の中に僅かに空いた空間がここだ。



唐突に発生した爆発に驚き近づけば、
そこらに海賊たちの死体が転がっており、
只事ではない何かが起きたのだと知った。
その何かが だとは思っていなかった。



「ポートガスと散々暴れまわってたお前だ。
 こうなる事くらい分かってたんじゃねェのか」
「…」
「そんなに生きていたくねェか」
「―――――」



振返った の眼差しはまるで人形のように凍てついていた。
視線だけでその姿を追う。
彼女はこちらに飛びかかり、
右手首を掴みながら身体全体を壁に押し付けた。
腹の上に跨った状態だ。



そのまま左手で葉巻を奪い、そのまま口付ける。
これ以上堕ちる事はないと、更に地獄をせがむ。
心も身体も失いたいのだ。何てバカな女だ。



「…どこにもいやしねェか、もう、あいつは」
「そうね」
「言ってやろうか、俺が、お前に」
「結構よ」
「そんな面して、よく言うぜ」



今にも泣きだしそうな顔の を眺め、
今度はこちらが舌を捻じ込む。
一瞬だけ動揺し、身を引きかけたが今更逃げる事は許されない。
胸元の肌蹴た女は随分と投げやりな眼差しで天井を仰いでいる。
理由も分からないまま、やけに興奮した身体だけが二人を繋いでいた。




何と!復活後、記念すべき100作目!
まさかのスモーカー!(何年ぶり!?)
自分自身驚いてます
すごい久々に書いたわー


2017/05/01

NEO HIMEISM