美しくない未来たちへ










昨晩降った雨のせいで随分と湿気が残っている。
元々日の目を見ない生き様だが、こればかりは堪える。


只、ここではないどこかへ行きたかっただけだ。
誰もいないどこかへ。
あの男の魔手から逃れ、少しで良い。
自由に生きたかっただけなのだ。


そもそもが囚われ自由を奪われていただけの事で、
こちらの意思は一切存在しない。
多少の同情心くらいはあったかも知れないが、それも最初の頃だけだ。


あの戦争からこれまで、確かに全てを見てきたつもりだ。
散々な痛みも味わったつもりだ。



「…
「…」
「どこに行くつもりだ?なぁ、おい…」



想像通りの展開だ。
必ずこの男は立ちはだかる。
いついかなる時も。


「もう、解放してよ」
「…」
「あたしの時間はあたしのものよ、晋助」
「いいや、そりゃ間違いだ」
「晋助」
「お前の時間は俺のモンだ」



時間も、お前も、何もかも全部。



「もう十分でしょう」
「いいや」
「私を解放して」
「断ったら、どうする」



刀を抜く女はこちらを見据え、
一切の希望を捨てたはずなのにもがく。
こちらが捨てさせたわけでもなく、
これには元々希望など抱ける要素がなかったからだ。


地獄を見据えた、まるで深淵のような眼差しの女。
これしかないと思えた。


あの大戦後、銀時を捜すこの女を叩き伏せ問うた。
に対しても、恐らくは自身に対しても。
自問自答に近い。


従わせるつもりなどハナからなく
(そもそもがこの女の事だ。いう事など聞く道理もない)
只、そこに、近くにいてくれと縋ったに過ぎない。
は了承したはずだが、
信用する事は到底出来ず、座敷牢へ仕舞った。
目を離す事は出来ず、共に連れ歩く時だけ外へ出す。


当然、 が良しとするわけもなく、
幾度かやり合ったがねじ伏せた。
命を獲るつもりではないからだ。
だけれど。



「…奇跡なんざ、夢の又、夢か」
「何?」
「いいや…」


似合わねェ真似をしちまったってだけだ。
キセルから紫煙が上り、ふうっと吐き出した。
が光に焦がれ続けている事は知っていた。
正直なところ、未だにかという気持ちもあるが、
そんなのはお互い様だ。
だからここで待ち伏せ、奇跡を願っていたものの。


「…互いに奇跡なんて信じる柄じゃねェな」
「そうね」
「似合いの結末と洒落込もうじゃねェか」



不思議と思いは上手く届かず、
こうして互いに刃を向け合う他ない。
やはり俺たちには奇跡など起きないのだと思い知るだけだ。



以前書いていた
【本当はヒーローに なりたかった】の続きです
当サイトでは思い出したかのように
以前書いていた話の続きが出てきます
解り合えない二人


2017/05/14

NEO HIMEISM