それでも雨は降るのだ、と












とてもじゃないが一歩さえも進めない状態だ。
一メートル先も見えない程の豪雨は昨晩から続いているのだし、
当然海も川も荒れている。


こんな調子では海賊も悪さを出来ないだろうと軽く考えていれば、
この雨で足止めを喰らった奴らはそこかしこの酒場で暴れ出し、
丁度この町の船着き場で何を逃れていた海軍の餌食となった。


そもそもの原因は、とある女の一声だったらしいのだが
(それは捕らえた名も知らぬ海賊が叫んでいた話だ)
そんな女はどこにも見当たらず、
適当な事をぬかしているんじゃねェと一蹴した。


酒場の主人たちは辟易とした様子で
(まあ、こんな港町だ。毎度の騒ぎだとは思うが)
スモーカー達に礼を言っていた。


船の様子を見に行くとしても、この雨足では到底無理だ。
閑散とした酒場に一人陣取り、窓の外を見つめる。
部下たちは宿へ向かわせた。
今頃好きにしているだろう。



「…あらぁ?随分スッキリしちゃって」
「!」
「お陰様でゆっくり酒が飲めるわ」
「お前…」



うんざりとした表情でグラスを拭いている店主は、
この女の事を知っている。
無論、こちらもだ。
俺はこの女を知っている。



「海軍の前にのこのこ現れるなんざ、手前どういう腹積もりだ」
「久々の再会じゃない、水臭い事言うのね」
「おい」
「いいじゃない」
「お前なぁ」
「旧友との再会に」



そう言い、はグラスを差し出した。











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互いに周りを気にしなきゃいけない間柄でしょうと女は笑った。
そのやり口が余りにも粗雑なだけなのだと呆れるが、
正直なところ昔から変わっていない。



「聞いたわよぉ、あんた、中将になったらしいじゃない」
「うるせェ」
「出世頭ね」
「…お前は」
「えぇ?」
「噂によれば…クザンと一緒にいるらしいな」
「どこ発信よ、その噂」



海軍にまだ二人が在籍していた頃を思い出す。
若手の中でもやり手のクザンと、その右腕的存在だった
この女も随分なやり手で、世界各国を闊歩しクザンの後押しをしていた。
そんな女だから、クザンとサカズキの一件後、海軍を後にした。
クザンのいない海軍に未練は一切ないと言わんばかりだ。



「もう、ずっと会ってないわ」
「…」
「どこにいるのかも知らない」
「…どうだか」
「疑り深い男ねぇ」
「何の用だよ、俺に」
「別に」



只、昔みたいに飲みたかっただけよとは呟き、
肩ひじをついたままグラスを満たす。
一気に煽ればすぐに注ぐ。酔う間もない。
肝心な質問には何一つ答えないままだ。
雨足は未だ衰えず、窓の外は白く濁っていた。












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まるでお約束のように寝具へなだれ込んだ理由は分からない。
どちらかが唆したわけでも、それに繋がる言葉を零したわけでもないからだ。
一本、二本と酒の弱くない二人はボトルをあけていき、
雨音はより一層激しさを増した。
店の主人が看板だよと声をかけにきたのは覚えている。


清算を済ませ外へ出れば、まるで嵐の最中だ。
ずぶ濡れになりながら、がとっていた宿へ向かった。
知らず知らずの間に握られていた指先、雨に濡れ今にもすり抜けそうだ。
わけも分からぬまま流され身を重ねる。


目前の身体を貪る間に思い出すのは昔の出来事で、
クザンと共に笑っていたの姿だ。
思い出しながら消す。
思い出は性感帯にならない性質だ。


安宿の壁は薄く、叩き付ける雨音が室内に木霊する。
アルコールで巡りのよくなった血液は呆気なく逆流し、思考を止めた。
とりあえずの射精で冷静さを取り戻す。
それと同時に、後悔も。



「中々止まないわね、雨」
「…あぁ」
「気が滅入るわ」



ベッドに座ったままこちらを見ないは、
片膝を立てたまま外を見つめている。
雨は変わらず降り続いていた。



元海軍主人公です
久々にクザンを出してみました(名前だけ)
スモーカーが割と簡単に
如何わしい女とヤってる話が多いね
続きそうですが


2017/5/14

NEO HIMEISM