そんな目で見ないでよと彼女は言い、
薄く笑ったように思えた。
その様が余りに海賊然としていて、
こちらは唖然としたものだ。
何となくの過去に存在した、それは確かに存在したのだけれど、
今こうして亡霊の如く形を手にした瞬間、
やはりそれらすべては幻なのではないかと、
都合のいい頭が都合よく作り上げた
幻だったのではないかと思えて仕方がないのだ。
だから、今ここに横たわるの姿も不自然だし、
まんまと一戦交わした己も不自然だ。
運命の再会は確か、四季の強く残る島。
緊急招集がかけられ、やれやれ又かと出向いた先。
毎度の応戦かと顔を出せば、まさかの再会だ。
あの頃よりも痩せたか。
髪は伸びた。
そんなに怒ってどうしたの。
背後から声をかけられ、思わず振り返る。
。
反射的に名を口にする。
誰かが目ざとく知り合いなのかと聞いてきたが、喧騒に掻き消された。
名を呼ばれた当人はどんどんと船から離れ、
まるで誘うようにスモーカーを連れ出した。
「…後悔してるのね」
「…」
「だったら、やらなきゃよかったのに」
「うるせェ」
「こんな事したって、何も変わんないわよ」
そんなのはあんただって理解ってるでしょう。
「お前、どうしてそんな真似してる」
「そんな真似って、何よ。堕ちたとでも言いたげね」
「違うのかよ」
あの頃、この女は光と同義だった。
強く美しく、輝きの象徴。
正義の名のもとに世界へ繰り出したはずではなかったのか。
美しさも成績も秀でた彼女は、憧れだったはずだ。
少なくともこちらの心に足跡を残す程には。
こんな生き方を出来るのかと驚いた。
こんなにも強く美しく生きていけるのかと。
だから彼女の現状が許せない。
納得は到底出来ない。
お前、こんな所で何をしていやがる。
「いつまでも変わらないなんて、そんな都合のいい展開はないわよ」
「変わり過ぎなんだがな」
「納得出来ないのね」
それは今こうして褥を共にしている事実でさえも同じだ。
まるで納得出来ない胸中とどうにか折り合いをつけたく、
間違いないと身体を欲したとでも言うつもりか。
彼女の変化に近づきもしないで。
いいや、違う。この女が。
「どっちにしたって、これは間違いね」
「…」
「バカな真似、しちゃったわ」
あんたも、あたしも。
互いに待つ者がいる身で、毎度過ちばかりを積み重ねる。
口にはしないまでも、その位は予想がつく。
それだけの歳月は経過している。
一夜の過ちにも成り得ないこんな一晩が何になる。
「…あんただって理解ってたでしょう」
「…」
「もう戻れやしないのよ」
こんな真似をしたって。
そう呟いた彼女はベッドの上で膝を抱えているのだし、
解り切った白々しさに耐えきれそうにないこちらは
今にも消え入りたい心境だ。
何故だか思い出とやらを蹂躙してしまったような、
単に汚してしまったような気がしてやるせないのだと、
そんな身勝手な思いを口にしてもいいのだろうか。
そんな事は言っちゃいけない…
2017/06/01
水珠
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