フロントガラスをぶち破り、それなりのスピードから転がり落ちた。
反射的に受け身を取ったがたかが知れている。
鋭い痛みが走り、左肩にヒビが入ったかも知れないと思った。



それでも立ち上がり撻器の運転する車の行方を捜す。
車はすぐに見つかった。
後数秒で壁へ激突するところだ。



という事は、撻器はとっくにあの車を捨てたという事で、
こちらを追っているという事になる。



間髪入れずに走り出せば。
例の車輪音が聞こえ、まるで余裕がないのだと知った。
車に搭載されたGPSで場所が割り出されるまですぐだ。
撻器の不在も知れているだろう。
迎えが来るまで30分足らずというところか。



どこへ行く宛もないがとりあえずだ。
振返る事なく走り出した。












■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■












随分指先が冷えているじゃあないかと、口付けながら囁かれる。
築かれた堤防はあっという間に破壊され、
文字通り力任せに身体を開く事となった。
満身創痍のこの身体を見て、
完全に不本意なのだと分かってもらえればいいが、それも望み薄だ。



俺は と向かうぞ。
撻器の一声に皆がざわついた。
あの瞬間の丈一の眼差し。
断るわけにもいかず、という事は全ての裁量を に委ねる事となる。
直情的に欲しい旨を伝える撻器を窘め、無事送り届けたその時だ。



何が問題だと不機嫌そうに呟いた刹那。
撻器の腕が伸び、 の腰を抱く。
じっと見つめる黒い目。
逸らせなかった。
全身がむず痒くざわつき、心が警笛を鳴らす。



「あぁ、そうか」
「…」
「お前にも、言い訳の余地を与えないと不味いな」



撻器の腕が離れ、束の間の安堵。



「お前が俺に負けたら、言う事を聞いて貰うぞ」
「なっ」
「これでお前も言い訳がたつだろう?」



ニヤリと笑う撻器を前に、最早逃げる術もない。
必死に攻防するが―――――
嘘だ。



言い訳程度の抵抗を見せてからの予定調和。
簡単に溺れた。
焦がれないわけがない、愛せない道理がない。
泥沼に引きずり込まれ心を持ち出される。
危険だと頭で理解しているはずなのに、心がいう事を聞かない。



致死に値する過ちはすぐに丈一達の知るところとなった。
散々な教育的指導の後、とある国への派遣を告げられる。
そうしてそれは撻器の知るところとなった。



「…お前が望んだ未来か? 」
「…」
「…そうか」



言葉を選ぶ隙も無い。



「…確かに、青臭くて嫌になるな」



いけと告げた撻器はソファーに腰かけたまま肘をつき、
こちらを見る事もなかった。



結局、何事も告げる事の出来なかった は
部屋を出た後に少しだけ、泣いた。












■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■












走り続けどこに向かうわけでもないが、気づけば砂浜へ出ていた。
細かな砂が纏わりつき足元が掬われる。
体力的にもそろそろ限界だ。
足を取られ膝をつく。
視線の先に撻器がいた。



「俺の勝ちだな、 」
「…!」
「また、俺の勝ちだ」
「撻、器、さま」
「あの時の清算をしなきゃならん」



自分以外の気持ちなどそもそも解りはしないが、
撻器の気持ちは果て無く知れない。
そんな彼が過去の清算を持ち出すとなると話は変わる。
元々乾いていた喉が干乾びそうだ。



「お望みの通りに」
「…本当かぁ?」



それはお前の本意じゃあないだろう。



「なら、命ででも償いますか」
「ふうん…」
「私には何もない」



何も出来ない、何も。ご存知でしょう。
辛うじて吐き出せるのはその程度の、愚にもならない言葉だけだ。
愛してる、愛している。
この身を捧げてもいい程に。



だけれど口にはしない、言葉で表さない。
そんな立場ではないからだ。
この思いは地獄まで道連れだ。
だから、



「俺を忘れない事がお前の罪か」
「…」
「だったら」



お前を忘れない咎は俺の罪か。
撻器は呟く。



やはり返す言葉の見当たらない は
あの時同様、少しだけ泣いた。




そして神は私の命を召し上げられた






『愛してるよ、クレイジー』の続きです
ついったで少し書いたんですけど、
元々は貘×ハルであたためてた話がありまして、
でもうち夢だからな、、、と思い消化したものです

2017/07/02