フロントガラスをぶち破り、それなりのスピードから転がり落ちた。
反射的に受け身を取ったがたかが知れている。
鋭い痛みが走り、左肩にヒビが入ったかも知れないと思った。
それでも立ち上がり撻器の運転する車の行方を捜す。
車はすぐに見つかった。
後数秒で壁へ激突するところだ。
という事は、撻器はとっくにあの車を捨てたという事で、
こちらを追っているという事になる。
間髪入れずに走り出せば。
例の車輪音が聞こえ、まるで余裕がないのだと知った。
車に搭載されたGPSで場所が割り出されるまですぐだ。
撻器の不在も知れているだろう。
迎えが来るまで30分足らずというところか。
どこへ行く宛もないがとりあえずだ。
振返る事なく走り出した。
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随分指先が冷えているじゃあないかと、口付けながら囁かれる。
築かれた堤防はあっという間に破壊され、
文字通り力任せに身体を開く事となった。
満身創痍のこの身体を見て、
完全に不本意なのだと分かってもらえればいいが、それも望み薄だ。
俺は
と向かうぞ。
撻器の一声に皆がざわついた。
あの瞬間の丈一の眼差し。
断るわけにもいかず、という事は全ての裁量を
に委ねる事となる。
直情的に欲しい旨を伝える撻器を窘め、無事送り届けたその時だ。
何が問題だと不機嫌そうに呟いた刹那。
撻器の腕が伸び、
の腰を抱く。
じっと見つめる黒い目。
逸らせなかった。
全身がむず痒くざわつき、心が警笛を鳴らす。
「あぁ、そうか」
「…」
「お前にも、言い訳の余地を与えないと不味いな」
撻器の腕が離れ、束の間の安堵。
「お前が俺に負けたら、言う事を聞いて貰うぞ」
「なっ」
「これでお前も言い訳がたつだろう?」
ニヤリと笑う撻器を前に、最早逃げる術もない。
必死に攻防するが―――――
嘘だ。
言い訳程度の抵抗を見せてからの予定調和。
簡単に溺れた。
焦がれないわけがない、愛せない道理がない。
泥沼に引きずり込まれ心を持ち出される。
危険だと頭で理解しているはずなのに、心がいう事を聞かない。
致死に値する過ちはすぐに丈一達の知るところとなった。
散々な教育的指導の後、とある国への派遣を告げられる。
そうしてそれは撻器の知るところとなった。
「…お前が望んだ未来か?
」
「…」
「…そうか」
言葉を選ぶ隙も無い。
「…確かに、青臭くて嫌になるな」
いけと告げた撻器はソファーに腰かけたまま肘をつき、
こちらを見る事もなかった。
結局、何事も告げる事の出来なかった
は
部屋を出た後に少しだけ、泣いた。
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走り続けどこに向かうわけでもないが、気づけば砂浜へ出ていた。
細かな砂が纏わりつき足元が掬われる。
体力的にもそろそろ限界だ。
足を取られ膝をつく。
視線の先に撻器がいた。
「俺の勝ちだな、
」
「…!」
「また、俺の勝ちだ」
「撻、器、さま」
「あの時の清算をしなきゃならん」
自分以外の気持ちなどそもそも解りはしないが、
撻器の気持ちは果て無く知れない。
そんな彼が過去の清算を持ち出すとなると話は変わる。
元々乾いていた喉が干乾びそうだ。
「お望みの通りに」
「…本当かぁ?」
それはお前の本意じゃあないだろう。
「なら、命ででも償いますか」
「ふうん…」
「私には何もない」
何も出来ない、何も。ご存知でしょう。
辛うじて吐き出せるのはその程度の、愚にもならない言葉だけだ。
愛してる、愛している。
この身を捧げてもいい程に。
だけれど口にはしない、言葉で表さない。
そんな立場ではないからだ。
この思いは地獄まで道連れだ。
だから、
「俺を忘れない事がお前の罪か」
「…」
「だったら」
お前を忘れない咎は俺の罪か。
撻器は呟く。
やはり返す言葉の見当たらない
は
あの時同様、少しだけ泣いた。
『愛してるよ、クレイジー』の続きです
ついったで少し書いたんですけど、
元々は貘×ハルであたためてた話がありまして、
でもうち夢だからな、、、と思い消化したものです
2017/07/02