待ち人はいつまで経っても来やしないぜ。
背後からかけられた声に反応さえ示さないは、
振り返りもせず溜息を吐き出した。
ここは今もって自身の全てだと言い切れる。
戦いが終わった後、打ち捨てられた館。約束の地。
館の一階、一番奥。
以前は来賓室だったのであろう、
大きな暖炉がある部屋で落ち合う予定だった。
大分いかれていた屋敷の主人がその暖炉裏に隠し部屋を作っており、
来賓者を逐一監視していたというこの部屋。
今は切り裂かれ見る影もないが、
暖炉上に飾られていた自身の肖像画の目の部分がくり抜かれ、
そこから覗いていたらしい。
大理石のテーブルは砕かれ、
金にモノを言わせ買い揃えられた家具は全て破壊されている。
「…嫌な予感はしてたのよねぇ」
「お前、まさか本気だったってわけじゃあねェだろ」
「絶対に戻って来るからだなんて、遺言みたいじゃない。ねえ?」
「そもそもが、野郎はとっくに逃げ出した後だぜ」
「わざわざ言わなくてもいい事ばっか、言うのね」
いつも。
「それじゃああんまりにもお前が哀れじゃあねェか。なあ?」
果たして何が真実かは今更分からない。
手にした事実だけが真実だ。
は約束の地で待ち惚けを喰らい、
そこを訪れたのは待ち人ではなく高杉。
幾度となく繰り返されたエンディング。
この男は、この期に及んで、
「何が気に入らないのよ、あんた」
ここで初めて振返る。
能面のような、見慣れた彼女の顔。
心を殺したその顔が好きだ。
俺を理由に心を殺したその顔が。
「そいつは逆だ。気に入ってんだぜ、俺ァ」
「高杉…」
「お前は俺の元以外じゃ生きていけねェ。
マトモじゃねェからな。
この時代に人斬りなんざ流行りようもねェが、
それでしか糧を得る事も出来ねェ。
そんなお前が普通に暮らせるだなんて、
まさか本気で考えちゃいねェよな」
「違う、そうじゃないって思ってるだけよ」
「俺はお前を生かす。
うんざりするくらい優しい真似だ。
ここまで自由にさせてやってんだ、
文句を言われる筋合いはねェが」
不義理は許さないのだと男は言う。
この男のいう所の不義理とは何なのか。
「…何の関係性もないはずだけど」
「いいや」
「あんたがあたしを抱くっての」
「お前が望むなら」
かっとなり殴りかかるが、
待ち構えていたとばかりにいなされる。
心の奥、触れない所が絡まって
もう離れようがないのだと高杉は囁くが、
どうしても心は認め切れず、
きつく抱きすくめられたまま、
未だ見ぬ恋人の姿を思い描いていた。
極彩色の束縛
君の抜け出した世界
とりあえず何かストーカーみたいな高杉ですが
今のところ殺すだけで手は出していないという話
2017/07/02
NEO HIMEISM
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