死にたがりの生きたがり








まるで死人みたいだなと言われた事がある。
エースに連れられ、親父のところへ出向いた後の事だ。
無事、白ひげ海賊団へ仲間入りした直後。
そう言ったのは、一番隊隊長のマルコだった。



出自を指摘されたようで一瞬ドキリとしたが、
そういった深読みは不要のようで、
単に姿かたちを称して出てきた言葉だったらしい。
エースが連れて来た新入りだと、割と簡単に受け入れられたように思える。



幾度かの戦いを経てそれなりに力も認められ
(要は足手まといにはならないという事だ)
エース以外の隊長にも声をかけられるようになった。
基本的に頓着しないエースはお前の好きにしろと言うだけだし、
でこだわりがない。
生きている現状だけで満足しているのは間違いなのだろうか。



兎も角、マルコに声をかけられたは生返事で了承し、今に至る。
統治している島の見回りという話だった。



「…お前、ここに来るまでは何をしてたんだよぃ」
「…」
「別にとって食おうってわけじゃあねェよぃ」



そう警戒するなとマルコは言う。



「簡単に言うと、奴隷かな。ややこしい話になるから、面倒なのよね」
「…生き残りか」
「…」
「お前のその目、見覚えがあるよぃ」
「…知ってたんなら聞かないでよ」



嫌な男ね。



「ここにいりゃあ心配はねェ、安心しろぃ」
「…そうね」
「お前が、それを望むんならな」



だからやはりこの男は嫌な男で、
こちらの心の奥の奥、隠し続けている欲望を不躾に踏み抜く。
思わず視線を上げると同時にかち合う目線。
恐らくは確信犯だ。



エースの手前、近づきはしなかったが、
どうやらこの男は最初からそう思っていた。
故に初対面のあの時、死人のようだと称したのだ。



「お前の戦い方を見てりゃあ、嫌でもそう思う。誰でもな。
 殺しても殺しても殺し足りねェ、もっともっと―――――」
「これまでそれ以外の世界を見た事がないのよ、
 それに、そんな生き方しか知らない。出来ない」
「許せもしねェか」
「許すって、何?何を?」



そんな目で見るな。
そんな、憐みの目で、わたしを。



「そういう奴らばかりだよぃ」



だから安心しろというわけではないがとマルコは言った。










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あの地下牢を抜け果て無く彷徨いながらぼんやりと気づいていた。
こんなにも心の休まらない世界ならば、いっそ戦いに明け暮れて死にたい。
こんな田舎町でも何れ血生臭い戦場と化す。
恐らく自分が存在するだけで。
ならばハナから戦場で素性を隠さず生きていきたい。
彼の国でこちらを捕らえ暴力で圧した奴らのように。



地下牢に繋がれる直前、半壊した奴らのアジトで犯されたあの光景。
生臭い吐息の中、押さえつけられた身体。



これからお前は散々こんなめに遭うんだぜ。
かわいそうに。



それから先は確かにそうで、その男の言った通りの運命を辿った。
思い出したくもない過去だ。



地下牢でこちらを貶め続けた奴らは戦火に巻かれ死んだが、
あの男、傭兵崩れのあの男達はどこぞで生き永らえているはずだ。
だったら可能ではないか。
復讐はまだ可能では―――――



あいつら同様、見知らぬ国の誰かを殺す時に躊躇はしない。
あの時の借りを返すのだ。
あの、引き裂かれた痛みを。











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「…いいのかよぃ」


こんな真似をして、だったか。
マルコは確かにそんな事を言ったように思える。
一夜を過ごす宿で寝具に入り込んだに対し、驚きもせず一言だ。



こんな生き方をしているから、とっくに頭が
どうにかしてしまったのだろうかと思うが、それでも共に生きていく他ない。
性的な衝動を抑えきれず、それでもまっとうに愛せない。
経験がないからだ。
だからやり方を知っているこれに固執する。



「お前、エースとは…」
「一度だけ」
「…」
「それっきりよ」



あんたともそうなるのかしらとが囁いた。










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二泊三日の小旅行から戻れば、
物知り顔のエースが待ち構えていたもので、流石に苦笑した。
当然この男は、こうなる事を知っていたわけで、悪趣味だなと呆れる。



「…どうだった?」
「どうもこうもねェよぃ」



復讐に身を焦がすは決して幸せにはなれないのだろう。
不幸な出土が尾を引き、とうとう海賊にまで身を落としたような女だ。
目的もはっきりとなく、只漠然とこの世界に対する復讐心だけで生きている。
哀れな、女。



「お前、あいつをどうするつもりだよぃ」
「悩みどころだねェ」
「やるならやるで、きちんとカタに嵌めてやれよぃ」



じゃないとあんまりにも可哀想だと呟くマルコは、恐らくは優しいのだろう。
海賊という条件の上では。
少なくともエースよりは優しいはずだ。
それをが知らずとも。



二度あいつに触れようとしても、どうにも穢れちゃってるもんでね。
その気になれねェんだと嘯くエースの隣、
マルコは煙草を燻らせながら昨晩のアレを反芻していた。







とりあえず生きてみることにしました、の続きです
覚えてない振りにマルコを書きました
マルコとエースの会話を書きたかっただけなんじゃないかと
何の裏もなく人は動かないという話

2017/07/24

水珠