ぼくの右手の色










全身からやたらと覇気を放つ女を横目に、
思わず俯きはにかんだ。
何ともいえない思いが沸き上がり、
喉の奥、胸の奥で渦巻いた。


店の奥でテーブルに足を乗せ、
ここは自分の縄張りなのだと無言でアピールする女は
昔と似た格好でそこにいる。


互いに歳を取っちまったな。
腹の中で呟いた。


あれはまだ随分昔の事で、
まだロジャーの船に乗り込んだ位の時期だったと思う。
海に憧れ、夢ばかり膨らみ、
海賊というその生き方に焦がれてばかりだった。


至る港で降りる先輩クルーの背に付き、陸での遊び方を知る。
着飾った淫らな女たちは酷く魅力的で、
こちらをまったく相手にしないしたたかさを持ち合わせていた。


初めて手にするそんな世界に当然の如く嵌り、
酒と女に溺れる怠惰な愉しみを知る。
それで一人前の男になったような気がしていた。



「…よぉ」
「…」
「隣、いいかい」



だからってやはり自分はどうかしている。
こんな状態なのに、
覇気を全身に受けながら隣に腰を下ろすのだから、
どうかしているのだ。


二人の覇気の余波で幾人かは倒れ伏し、
他は他で面倒に巻き込まれては事だと店を後にする。
結果、この広い店には とシャンクスの二人だけになった。
あの頃も今も、俺とお前はいつだって二人っきりだな。



「久しぶりだな、
「…」
「何時振りだ?えぇーっとほら、
 お前と最後に会ったのは確か―――――」
「あんたがあたしを犯した時じゃないの」
「!」
「犯られた方は忘れないけど、
 犯った方は覚えてもいないって、よく言ったもんんね」



その事は当事者の二人以外知る由もない。
若かりしあの頃の歪んだ過ち。
手に触れるもの全てが自分のものになるのだと思えたし、
欲しければ奪う事が当然だと考えていた。


海賊としての本質では間違っていないのだろうし、
未だに根っこのところは変わっていない。
やり口だけが狡猾になっただけだ。


それに、随分歳も取ってしまった為、
あの頃のような、滾るような欲情に身を焦がす事もない。



「そうか、そうか…そいつァ悪い事をしちまったな、
「何の用」
「いいや、特に何も、何の腹積もりもねェさ」
「冗談でしょ」
「うん?」
「あんたが、何もなしに顔を見せるわけがないでしょう」



あの時も、今だって。



「随分な言い方だ」



この女も海を渡り続ける間にやたらと擦れ、
今となっては一端の海賊団を率いる。
世界政府に目を付けられる程度の、新世界に名を轟かせる女。
容易く触るような男はいないだろう。
肌に触れる前に腕は斬り落とされるのが関の山だ。


そういえばあの頃もそんな噂で持ち切りだった。
そんな女の両手を抑え込み、無理矢理犯した。
酷く、気持ちが、よかったが、



「あんた、この期に及んで」
「…うん?」
「シャンクス」
「…いいじゃあねェか、



どうせ俺たち以外にゃ誰もいねェんだ。
とっくにテーブルから足を下ろしている
臨戦態勢に入る前に左手首を掴んだ。
あの頃とは違い、こちらは片腕だ。
だなんて、



「あんたが謝罪だなんて、柄じゃないのよ」
「あの時の男、どうした」
「…とっくに死んだわ」
「どうして」
「汚された女を救うって、」



あたしに斬りかかって来たからだと呟く を見つめれば、
否が応にも興奮してしまう。
愛した男をこの手にかけたのかと指先を撫でれば、
あんたに出会った事をずっと後悔しているのだと、
女が吐き捨てた。



今も昔もシャンクスのイメージは
変わらずこんな感じです

2017/08/14

NEO HIMEISM