そしてあなたは




うつくしくほろびる








太古の昔から伝えられている毒に近い薬は、
淡い紫煙となりここに渦巻く。
薄暗いフロアは人でごった返しているが、
肩がぶつかろうが足を踏もうが一向に気にならない。



こんな所でこんなものに溺れている場合ではないのだ。
そんな事は、ハナから分かっているのだが、
どうにもこうにも頭が働かない。



この紫煙を吸い込んだ瞬間から理性がすっかりと消えてしまい、
ぼんやりとした欲求に支配された。
元々は神々に捧げる贄に使われていたらしく、
随分と強い作用が神経を麻痺させる。
目の前で首を切断される様を見ても、
一切の恐れを抱かない程に人を前後不覚にさせる。
発見された遺体に抵抗した様子が見られなかった事から、
そう言われている。



まあ、実際にそれを喰らいこの状態になったのだから、
その仮定は正しかったといえる。



「…メメ」
「どうしたんだい、



随分ご機嫌だね。
昨晩と同じ、フロアの一番奥。
隠された一室にメメはいる。
偶然壁の隙間に爪先が入り、ドアが回転し中へ転がり落ちた。
既に煙に巻かれていたは只、床に転がるばかりで、
立ち上がる事もなくそのまま倒れ伏した。



やれやれ、君はいつだって急に現れるね。
フロアで見ず知らずの男と絡み合う直前だった身体は
熱を発散できず、夢うつつの状態で声だけを聞いていた。



その声の主がメメだったのだと知ったのは、
もうそれこそ肌蹴、男の身を弄っていた最中であり、
タバコ臭い唇がニヤリと歪んだように思えた。



「どうしてあんたがここにいるの」
「…今更だね」
「あたしの呪いを反したの、あんたよね」
「下手な商売に手を出すからだよ」



そんなの、貝木でもやらないぜ。



「他人の仕事の邪魔をするなんて、ちょっとらしくないんじゃないの」
「やり方が杜撰なのさ」
「どうするのよこの惨事」
「そんなのは俺の仕事じゃない、君の仕事だろ」



どうケリを付けるのかは見届けさせて貰うけれどと続け、
メメは立ち上がる。



金に目が眩んだ術者に対するペナルティといった所か。
臥煙の差し金なのだろうとすぐに気づいたが、
こうなってしまえば今更どうでもいい話だ。



まだ薬は抜け切れていないし、頭は曇り、
身体はいう事をきかない。
様々な呪いを使い好き勝手にやってきたツケが
今、回って来たとでもいうのか。
そんな、バカな、



「まあ、役得だよ」
「何…」
「こうしてお前を好きに出来る」



その位の褒美がなけりゃやってられないだろうと笑い、
ひたりひたりとゆっくりこちらへ近づくメメを
只、見上げる事しか出来ない。



思わず一歩後退れば開かない壁に背がぶつかる。
メメの長い腕が伸び、壁との間にを挟み込んだ。
獲物を捕らえるようなその目。



「…元気がいいわね、あんた」



何かいい事でもあったっての。
震える声でそう吐き出したが、メメに届いただろうか。



続・終物語にてメメ復活シーンを見まして
当然ながらヤダ格好いい…となりました
パンツのサイズ感だけが納得できない

2017/08/27

NEO HIMEISM