油断してると殺しちゃうよ?








いや、別に何とも思っちゃいないよ。
だってお前、そんなに悪い女じゃなかったし。
え?まあ、性格は最低に近かったけど、顔と身体は悪くないじゃない。
え?そんな話してないって?だったら、どういう話したいのよ。


っていうか、そもそも、なんで今更お前が俺を訪ねてくるわけ?
だって、お前俺の事、散々な振り方して出奔したじゃない。
はっ?覚えてないって?覚えてない?
え?もう一回聞いちゃうけど、覚えてないの?
ど畜生だな、お前。
俺の親父が生きてたら本当、生きて帰れなかったよお前。
ま、親父はとっくに鬼籍入りなんだけどね。


いやいや、いやいや。
だからって俺がお前を家に―――――
え?何で勝手に入っちゃってんの?
それ完全に家宅侵入だからさ、
なあ、お前、俺の話ちゃんと聞いてる?


それにさ、俺さっき言ったと思うんだけど、親父は鬼籍なのよ。
って事は、この屋敷には俺とお前の二人しかいないのよ。
そういう事なんだけど、
お前はどうしてそうズカズカと上がりこめたんだろうね。


だって今の俺の態度どう見たって、お前に未練タラタラだし、
あんな舐めた真似されたにも関わらず、
俺はお前に怒りの一つも覚えちゃいねェわけで、もう骨抜きなわけ。
金だって相当抜かれたし、仕事の邪魔だってされたよ。
何なら、最後は仕事中に手のひら返しよ。
お陰様で仕事には大打撃、散々絞られたし干されたからね。
服部の面目丸潰れ。


だけどそんな俺は今、
お前を目の当たりにして正常な判断能力が低下中。
絶対に何か裏があるし、
何なら命の一つでも獲りに来たのかも知れない。
にも拘わらず平気。むしろ動悸。


だって、肝心のなんて、
つい先刻まで俺が一人寂しく横になってた寝具の上に座って、
何事かを語りかけてきてるからね。
え、あ、そこ行っちゃうんだ、みたいな。
そこで話しちゃうんだ、みたいな。
そんな、そんなとこで話するなんて、一つしかないでしょ、みたいな。
俺とお前が寝具の上でやる事なんて、一つしかないでしょ。
一緒に仲良くおねんねなんて、それだけは絶対にない。



「今更だって、怒ってる?全蔵…」
「え?」
「裏切ってごめんね」
「あー」



そうね。そんな事もあったよね、ってね。
OK、OK。俺だって只の間抜けじゃない。
ちゃんと理解はしてる。


だから、がこの屋敷に来たと同時に膨らんだ数名の気配だとか、
目前のが胸元に隠した小刀だとか。
そんなのは全部分かってるし、清濁併せ呑む気概だ。
どれだけ仕方がなくても、どうにも術がない。



「…嫌だ、気づいてたのね」
「…ごめんなぁ、
「!」



今度ばかりは俺も騙されてあげられないのだと呟いた全蔵は
煙幕を投げ、一先ずの視界を奪う。


敷地内に潜む不審な気配は三つ。
一人頭10秒の計算で、戻って来てお前を抱く。
だからマジで覚えてろ性悪女。


全蔵の言葉ばかりが白い室内に木霊し、
してやられたと今度はが笑う番だ。



全蔵が好きです(ど直球)

2017/09/04

水珠