居場所を失った僕らの愛は






だってこれであたしがあんたとヤったら、気まずさがすごいじゃない。
そもそもヤル気なんてないくせに。


だなんてクソ可愛げのない事を可愛い顔して言っちゃうわけで、
だけれどその可愛い顔は背けられている為、単なる想像でしかない。
少しだけアルコールの入った二人は今、こんな小部屋に放り込まれている。
どこの誰の悪意とも言わないが、実際そうだ。
そもそもの出会いは攘夷戦争まで遡る。


あの時代、女という性を隠し生きていたは、
その状態で攘夷志士として生きていた。
腕も確かで、正直なところ、話を聞いても
女だと信じる事が出来なかったくらいだ。


松陽が気づき、説得をし、皆に説明をした時でさえ信じ切れず、
一戦交える事となった。
互角の戦いは時間ばかりを浪費し、先に膝をついたのは
体力的な問題だったと記憶している。
その時にでも半信半疑だった。


まあ、その後は直接的に、本当に女なの?だとか、
ちょっとおっぱい触らせて、だとか。
そんな下らない絡みをしつつ、平常運転となった。はずだ。
女とばれてからは、俺だなんて言わなくなったし、
言葉使いも比較的女性的になったが、
攘夷の心は変わらないもので、共に戦った。
背を預けてもいいくらいの信頼度だ。
自分でいうのも何だが、大変いい関係だったと思うし、
それだけの時間を共に過ごしたはずだ。


そうして訪れる負け戦。
全てが無くなった後、たどり着いたのはこの、かぶき町だった。
彼女の秘密を知るのは仲間内だけだった為、
行方を晦ます目的もあり、は完全に女性へと戻った。


着物を着、少しだけ如何わしい店の雇われ店長をしている。
刀を置いたからといって、腕っぷしは変わらない。
その如何わしい店は、攘夷党の支援者が隠れ蓑として運営しているわけで、
結果あの女も完全に足を洗えてはいないのだ。


それが何故か。
どんな理由があるのかは分からない。
いや。実は薄っすら分かっている。薄っすら?


そういえば先日、桂に言われた事を思い出す。
客の呼び込みをしていた桂に捕まり、したり顔で説教された気がする。



「お前はの事をどう思っているのだ。
 あれも、もういい歳なんだぞ。
 いつまでもブラブラブラブラ、金玉のようにブラブラブラブラと性懲りもない」
「例えが汚ェし、意味も分かんねェし。俺、行っていい?」
「ふざけるな銀時!いっそ、押し倒して
 組んず解れつしてしまえばいいではないか!」
「うるせぇよ、ヅラ。ああーもう、死んでくんねーかなー」
「あれは、あれの心はもう高杉には戻らん」
「…」
「ずうっと宙ぶらりんのままじゃ余りに憐れだ」
「…何でお前が知ってんだよ、ズラ」
「知らんわけないだろう。お前と、と、高杉。
 いつまで経ってもズルズルと…」



あの頃、との距離が近かったのは
何も自分だけでなく、高杉も同じだった。


誰もが決して本心を見せず、思いの欠片さえ口にしない。
不文律とも思える暗黙の了解。


そんな淡い日々は突如終わりを迎える。
今でも何一つ色褪せない。一切忘れない。
手に取る程リアルだ。


と高杉の逢瀬。
完全に女の目をしたの髪をかき上げる高杉の指。
清濁併せ呑む他なく、何の味もしない感情を噛み殺した。
あの瞬間から時は止まり、誰も、誰の心もわからないままだ。


そうして上記の会話。
やけに挑発的なの言葉。
この悪意は桂のお節介により完成する。


閉じ込められたこの小部屋は、の職場である簡易宿の一室だ。
普段は物置として使われている小さな部屋。



「…いいんじゃないの」
「え?」
「だって、もうとっくに気まずいし」



が未だに反幕府勢力と付き合っている理由に
高杉が絡んでいるのかどうか、だなんて今更どうでもいい。


そもそも、そんなに大事だってんなら、
好き勝手に放置してんじゃないよという話で、
どこまで馬鹿にしてやがると憤ってもいいんじゃないの?
俺、流石にもういいんじゃないの?


よくよく考えたら、俺だけがこう、何?
一人相撲で我慢までしちゃって、
あのバカは自分のやりたいように好き放題してるわけだろ?
え?何あいつ、王様か何かなの?


ああーもう知らん。もう知りませんよ。
てか、。お前もお前だから。
やけに挑発的な言葉並べちゃって。
そんなの誘ってるってみなされて止む無しだから。
そんな可愛い顔して、可愛くない言葉吐いて。
さっきから一向にこっち向きやしねェのな。本当。
そういうとこよ。俺が言いたいのは。


だから、もうどうでもいいんじゃないの。
だなんて、まるでロマンチックでない言葉を吐き出しながら、
の指先を握った。





銀時と高杉って話好きだな私、、、
桂はちょっと出し出来る良いキャラです

2017/10/07

AnneDoll/水珠