鳴かない魚








鼻が利くのかと言われれば実際そうで、
こんな生き方をしてる以上、目端は異様に利く性質だ。
どんな些細な粗一つ見落とさず、執拗に付け狙う。


お前は本当にしつこくて嫌な男だと、
団長辺りは事あるごとに言うが、そんなのはあんたも同じだろうと、
口が裂けても言えねェな、それは…。


いや、でも、ほら。あれじゃねェか。
そういうのってあるだろ。


どいつもこいつも、こっぱずかしくて口に出すまでもねェってだけで、
惚れた腫れたの何だかんだってのは、大なり小なりあんだろ。
まあ俺もな、ほら、どう考えたっていい歳だし、
愛だの恋だのって柄でもねェし。
むしろ上がアレだからもうオンもオフもねェし、
あいつ本当、無茶振りが過ぎるし。


ていうか、副団長とかさ。
いっちばん可哀想な立場だからね。
あのバカのお守はしなきゃなんないわ、
あちこちに指示出さなきゃなんないわ、暇がひとっつもねェの。
時間がねェのよ。愛?恋??何それ。
それ、喰えんの?ってなもんよ。


立ち寄った星々の盛り場に出向き、
一夜限りの女を抱く程度の情熱しか残されてないわけで、
それ以外の時間は全てを激務に費やす。
何も求めず、追わず。
来るものは拒み去る者は殺す勢いでやっては来たが―――――



「…
「…阿伏兎」



殺し損ねた女を見つけちまった。












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何であの男がこんな所にいるんだだとか、
本当あたしってこういうとこあるわよね、
そもそも運が人の三割減なんだけどだとか、
今朝の占いの最下位ってこういう話だったわけ?
だとか、どうでもいい事ばっか頭の中を駆け巡るわけで、
とりあえず今、私は死にもの狂いで逃げてまーす。


何故かというと、絶対安全圏だと思っていたこの地球に、
あの宇宙海賊春雨第七師団が来ていやがったからであり、
あいつらもあいつらで闇夜に紛れてコソコソしてりゃあいいものの、
何か堂々と町中歩いてたりしやがるもんで、
ええ?どういうつもりなわけ?
悪い奴らはそれ相応の立ち振る舞いしろってのよ。



「お、何してんだ全速力で」
「ヤダ、全蔵こそ何してるの(あたしと同じスピードで)」
「いやーお前を見かけたもんで」
「凄い偶然!これから全蔵の家に行っていい?」
「えっ!?!?(どゆこと!?)」
「行こう行こう!今すぐ行こう!!」
「えぇー!?(そういう事にしちゃうよ!?)」



故郷の小惑星は春雨に襲われ壊滅した。
そのまま人売りの品として春雨に連行され、
商品として出荷される前に命を賭け逃げ出した。
逃亡は失敗に終わったが、その心意気を買われ春雨の一員となった。


望んではいなかったが一度失敗したら二度死ぬのは恐ろしく、
一旦は全てを諦めた。
諦め、言われるがままに奪う側へとまわり
同じように星を滅ぼし続けた。


着々と力を付け、師団長の会合へ顔を出すようになり、
そこで出会ったのだ。
元々、馬の合わなかった団長と
(そもそも、そいつはの両親兄弟全てを皆殺しにした張本人だ)
袂を分かち、所属が宙ぶらりんになったあの隙間。
どうやら心にも隙が生まれたらしい。
憎き春雨の男だというのに、惹かれてしまった。


俺の元に来いと熱心に口説く阿伏兎と幾度かの逢瀬を重ね、
その重みに耐えきれず逃げ出した。
春雨の追っては憎き団長率いる部隊だ。
戸惑う必要もない。
ここぞとばかりに皆殺しにしてやった。


逃げ続けていれば何れ阿伏兎が来るかと思ったが、
そうなったらそうなったで(待っていた、とは言わないが)
いいかな、と思ってはいたのだが、
拍子抜けするほど追手は来なかった。


その後は星を渡りこの地球へ辿り着き、
天人という素性を隠し生きてきた。
第二の人生というやつだ。
何も持たない自分に唯一残された方法が、
まさか春雨に与えられたこの職能だとは皮肉な話だが、
この星に根付いた始末屋という職で糧を得ている。


この全蔵と出会ったのもそういえば職場であり、
今も昔も変わらないなと流石に呆れた。
逃げ続けるその足で全蔵の家へと向かい、転がり込む。



「ええーっと、何これ。何でお前、俺の家にいんの?」
「ええ?いやー何ていうか、ほら…そろそろかなって」
「そろそろって何?俺とお前って何かあった?あったって事でいいけど」
「わざわざ言葉にするような年齢でもないでしょ」
「本当に俺、やっちゃうよ?いいの?頂きますだぜ??」



その瞬間、吹き飛ばされた全蔵宅の壁。
砂煙の中、薄っすらと現れる男のシルエットと、逃れようのない気配。



「み〜つけた」
「…(こいつマジかよ)」
「えっ、あっ、え?何?俺ん家、なくなる感じ?」
「お前の匂いなんて、忘れてねェもんだな。なあ、



運命ってやつか。
随分ロマンチックじゃねェか。



「ええー?いやいや、いやいや。
 人ん家の壁ぶっ壊しといて、ロマンチックも何もないから」
「!、てめっ。何だこの男―――――」



浮気かと続けた時点で、とっくにの姿はなく、
野郎二人だけが取り残される。
顔を見合わせたまま十二分な時間が経過した後、
ぽつりと、どちらかともなく、何か、ごめん。そう呟く。


いや、こっちこそ悪ィ、何か、壁とかほら。
ああー確かに吃驚したけど、や、いいよ。


酷く余所余所しいものの言い方でどうにかその場を濁す。
気づけば半壊した部屋に、全蔵だけが取り残されていた。





侭ある、誰得なの?という話です
阿伏兎と全蔵とかって誰得なのかと
まあ、私得なんですけど
今回更新の拍手で、遭遇時を書いてます
そして前後編です(すまんね)

2017/10/07

水珠