週末ごとに揺れる









こと、このには悪癖がある。
成人してすぐにその癖に気づいて、一応気を付けてはいるものの、
様々な諸事情により中々改善出来ないでいるのが現状だ。
ストレスが溜まると確実にアルコールに逃げるという癖。
これはよくないと分かってはいるのに、
ドーパミンの作用とは恐ろしいもので、
このどうしようもない頭には完全に叩き込まれてしまったようだ。
だから最近は、もっと違う努力をする事にした。


『…えぇ??』
『…酔ってんの?』

知り合いが一人も来ないような場所まで遠出をして飲む。
翌日が休みの日及び出張時の地方でのみ成立する。
酒を飲むと何故か無性に寝たくなるのだ。
しかも、相手は誰でもいいという最低っぷり。
まさか酒乱の気が自身にあるだなんて夢にも思いはしなかった。
が、これまでの経験を振り返り
(何故か知らない男の隣で目覚める)
(知らない男から事後のメールを頂戴する)
どうやら事実だと確信するに至った。


『………』
『…凄いな』


会社の側で飲まないようになり、幾ばくかの不安が消えた。
そうして昨晩も飲みに出て、飲んで―――――


「………嘘でしょ」


何故か本当に分からないんですけど、隣に課長が寝てます。
これは何?しかもあたし、実は賭朗のスパイなんですよ?
若しかしてこれって、あたしやらかしちゃった感じ?
これ能輪さんにばれたら、殺されるのではないの??


ぼんやりと濁った頭でよくもこれだけ考える事が出来たと思う。
分からない。この状況が何一つ理解出来ない。
隣に眠る(恐らく眠っているであろう)男に気づかれないよう、
静かにベットを降り、そそくさと服を着て部屋を出てしまえば―――――


「おはよう」
「…っつ!!」
「お前……凄いな」
「!?」


何が、だなんて聞く事は出来ず、取りあえず曖昧に笑った。
仕事中と変わらず億劫そうな表情で
上半身を起こす課長―――――
真鍋匠は何を考えているのだろう。


というか、毎度ながら昨晩の事が何一つ思い出せない。
この男とどこでどう出会った。
自分を庇うわけではないが、
こちとら毎度前後不覚に陥っているのだ。
そんな女を持ち帰る男は基本的にロクでもない男なわけで
(要は毎回そういう男と寝ているのだが)
天下の警視庁密葬課の課長ともあろう男が
やっちゃいけない事だろうと思います。
だって、知り合いどころか相手、部下だぜ?


「お前、いつもこういう事してるのか?」
「(あ、あんたは!?)」


ポツリポツリと少ない口数の癖に
確信を突く質問を繰り出されながら、
もう本当に申し訳ありません、だとか、忘れて下さいだとか。
そんな、どうしようもない言い訳を口にしながら
脱兎の如く逃げ出した。
心底動揺し過ぎて足元がおぼつかず
何もない所でこけ倒した位だ。


家に着くと真っ先に報告をした。
能輪はまあ、無論大激怒であり、
処分はどうあれ戻って来いと伝えられる。
すぐに手を回したらしく、業務中に死亡した事にされた。











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新しく入ってきた女が怪しい。
その報告を受け、どうしたものかと考えあぐねていた。
若い女がこの密葬課に入って来た時点で怪しくはあったのだ。


家は築30年の賃貸マンション、実家は東北の方の米農家。
弟が一人。通勤手段は電車。
幾度かつけた事がある。
特定の男性はおらず(無論女性も)仕事が終わると大体、
最寄り駅に併設されている店で夕飯を買って帰る。
電車の中では壁にもたれたまま眠る事も度々。


普通の女かと思っていれば、毎週末どこかへ出かける事に気づいた。
最初はバーに消えていくだけかと思っていれば、
店から出てこない事に気づく。
そうして、次に見知らぬ男と消える事に気づいた。


三度目の週末、素知らぬ顔で同じ店に入り込んだ。
浴びるほど酒を飲み、驚くほど泥酔したを目の当たりにした。


「………」


何気なく隣に座り、様子を伺った。
酒を飲むと人が変わる奴は沢山いるが、
このもそうだったようで、
テーブルに寝そべったまま視線だけを匠に寄越し、
ぼんやりと見つめてきた。
この様子ならば気づかないだろうと思っていたが、
案の定は匠に気づかなかった。
ベタベタと触り今にもお持ち帰り出来そうな雰囲気。
そういう事かと気づいた。


「(捜査中に死亡…?)」


あの日、彼女に理性はなかったと思う。
求めるだけ求め、好きに動く。
酒の力がそうさせているのか、彼女の本性がそうなのか。
どうせ覚えちゃいないだろうと思い、
こちらも割と好き勝手にさせて貰った。
どうせは覚えていない。
愛していると囁きながら行ったセックスなんて覚えちゃいないだろ。


翌朝が目覚めて、予想通りの動揺を見せ、
泡を食って逃げ出すまで淡い気持ちは抱けていたのに、
もう二度と会えないだなんて。


ぼんやりとのデスクを見つめていれば、
あんたも随分執念深いねェ、だなんて鷹さんから言われ、
そんな事はないよと小さく呟いた。










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賭朗に戻されたは圧倒的に怒りまくった能輪により、
閑職に飛ばされていた。
おかげ様で酒も飲まなくなったし
(能輪の厳しい監視下により飲めなくなったし)
すこぶる快適です。


何たって次は新しい立会人の
小間使いとして働けるらしいしね!
実はあたし、次期立会人候補ナンバーワンだったんだけどね!
もう、死にたい!


「おい、君が―――――」
「…課長?」
「……」


あのジジイやりやがった、咄嗟にそう思った。
この賭朗内ではの悪癖は知れ渡っていない。
この、目の前で驚きを隠しきれていない男を除いては。


いつまで続くか分からない閑職、
その閑職の原因になった男の部下という職務。
これは、罰なのだろうか。





酒を飲んだら誰とでもヤルという謎の主人公と
そんな女とやった課長の話です
あると思います

それはさておき、能輪さんを出し過ぎ

2015/09/22

NEO HIMEISM