コードネーム無限








尾形から持ち込まれた仕事は、予想通りというか、
当然というか、万全に危険なものであり
(というか、これは完全に囮として使われているのだろうか)
取引の現場で捕獲され今に至るは、
後ろ手に縛られた腕を捩り拘束を解こうとしていた。


こうなる事は薄々分かっていた癖に、
尾形の度の過ぎた(というか、執拗な)説得により
協力せざるを得なくなった。
どんな方法よりも、銃口を向けられての説得が一番効果的だ。


この、業界でも最も武闘派と呼ばれる組織に近づき、
交換条件を元に情報を引き出せと言われはしたが、
現場に到着した途端に無数の銃口に囲まれそれどころではなくなった。
こちらの顔も流石に引き攣るわけで、状況の把握出来ないに対し、
相手は笑いながら言ったものだ。
尾形との駆け引きに使わせてもらうぜ。


いやいや、あたしの命なんて何の価値もないわよ、
駆け引きになりゃしないから。
思わずそう言うが、一向に聞く耳を持ってもらえず今に至る。


こいつらの言う通り、尾形に対し駆け引きの一つでも
持ち掛けていようものなら、俺は知らん、程度の事は
優に言ってしまいそうだし、そうなるとこちらの命は
風前の灯火程度ではなくなる。
とりあえず今は、一刻も早くここを抜け出さなければならない。


ようやく拘束が外れ、ヒリヒリと痛む手首を摩りながら室内を見回す。
倉庫のような狭い部屋だ。
窓一つない上に、唯一のドアは外から施錠されている。
手持ちの武器はない。
当然だが全て取り上げられた。


そうなると手段は限りなく制限される。
息を潜め、連れ出されるタイミングを待ち、
とりあえず一人を手刀で昏倒させ武器を奪う。
そうして部屋から抜け出した。











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出口を求め走り回るが、流石に途中で逃走に気づかれ、
追手の数が倍に増える。
余り殺しはやりたくない主義だが、如何せん難しくなるわけで、
行き当たりばったりで銃を奪い逃げる羽目になった。


諍いを避ける理由は過去からの脱却だ。
余り思い出したくないもので、記憶にある光景を避けるようになっていた。
この、命を晒す感触。知っている。とても懐かしい光景だ。
走りながらふとガラスにうつる自分の顔に視線を奪われる。
笑っていた。


尾形がこちらの過去をどこまで知っているのかは分からないが、
あの男はしきりに無駄な真似をするなと繰り返していた。
あの時は、俺の誘いを断るなという事だろうと思っていたのだが、
あの男、まさか知っているのか。
こんな、こちらの性分を知っているのか―――――


出口直前に待ち構えていた男達が一斉射撃を開始し、足止めを喰らう。
弾が切れるタイミングで手りゅう弾を投げ、走り出した。
ゆらりと影が蠢き、装填する音が聞こえる。



「…っ!!」



砂煙の途切れた瞬間、こちらに向けられた銃口が目に入り、
イチかバチかの大勝負だと腹を括った。
数秒こちらの方が遅れた。



「死ね!!」
「―――――!!」



最後まで目線が銃口を追い、ここが年貢の収め時なのかと思った刹那、
こちらに銃口を向けた男の額に赤い穴が開いた。
額に穴の開いた男が昏倒する前に振り返った。
体制を崩し、共に倒れ込む。


僅か痙攣を繰り返す男の身体を盾にし、辺りを見回した。
銃弾はまだ降り注ぎ、
手りゅう弾の衝撃で昏倒していた兵に止めを刺していく。
銃声は3分程鳴り響き、辺りはもう血の海だ。



「よーしよし、。及第点だ」
「…尾形!?」
「人を殺したくないなんて、よく言えたもんだなお前」
「…!」
「地獄絵図じゃねェか」



銃声が止み、辺りが静寂に包まれた直後、
どこからか尾形の声が響いた。
既にこと切れた男の躯を投げ立ち上がる。


遠くの方から、こちらへ向かう影が一つ確認でき、
それが尾形だと確信した。
黒のトレンチコートを来た尾形は、ライフル片手にこちらへ近づく。
血まみれのとは対照的に、随分とキレイないで立ちだ。



「あんた、なに」
「そいつの命さえ獲れりゃあ問題ない」
「はっ」
「まあ、ここまで壊滅させるとは思っちゃいなかったが…」
「あんた、最初からあたしの事を」
「気持ちよかったろう、なぁ、



お前に巣食っている邪な気持ちを解放させてやるよと言いたげだ。
心の奥底の方に秘め鍵をかけていた、このよくない思いに、
どのタイミングで気づいた。


呆然と立ち尽くすに、
どうした、嬉しいんだろう、だったら笑えよ、
だなんて話しかける尾形の心中は分からない。
尾形の腕が肩に回され、だからお前が必要なのだと囁く。


漫然と一歩踏み出しながら、
この場合は果たしてどちらが狂っているのだろうと、
今更な不安を抱えていた。





殺し屋尾形(?)の続き
無理矢理協力させられるわ利用されるわ
散々な主人公

2017/11/12

NEO HIMEISM