移り気なカメレオン









「か弱い女性に対して、この扱いはないんじゃないの」
「早く、中に」
「あたしはゲストよ?そこんとこ分かってるの?」
「いいから、さっさと車に乗れ、



両手首をがっちりと拘束している手錠は、
恐らく特別に発注されたもので、
どう足掻いても外せない仕組みになっている。
最新のものなのだろう。


電子ロックで開くのかと思い、
早く車に乗れと急かす月島の様子を伺っているのだが、
当然外から見える場所になんてしまわないわけで、長丁場になるなと腹を括った。


この国に戻ったのは、単に調整の為だ。
半日だけの滞在で飛び立つつもりが、空港を出てすぐに囲まれた。
男達は大変丁重な口振りで諭す。公安だとすぐに分かった。


こちらも仕事でここにいるのだ。タイムロスは避けたい。
このまま中東に飛ばなければならないわけで、
だからといってそんな説明をする必要もないと判断した。
当然、交渉は決裂。
屈強な男五人程度ならどうにでも出来るとたかを括っていれば、この月島の登場だ。


要所要所で出て来るこの男の事は知っている。鶴見参事官の懐刀だ。
最終的に組み伏せられ、件の手錠をかけられた。



「…で、何」
「…」
「どうせ鶴見参事官でしょ」
「…」
「今度は何させようってのよ…」



これまでも度々、こういう目に遭っている。
事前に何も知らされない極秘任務。
決して表沙汰には出来ないが、一刻の猶予もないという、
出来れば避けたい任務だ。


以前、こちらの上司と共に顔合わせをした際、
やけに気に入られたようで、それ以来こういう無茶振りを頻繁に喰らう。
こちらの上司も弱みか何か握られているのか、何故か断らない。



「あんたも大変ね、あんな上司の元で」
「…」
「ていうか、返事くらいしなさいよ」
「…」




ハンドルを握る月島は相変わらずの無表情で、こちらの問に一切答えない。
返事の一つもしないだなんて、それは失礼じゃないのかと、そう思うわけだ。
ゆっくりと右足を上げ、月島の膝の上に乗せた。
一瞬ビクつく月島の反応を伺う。



「…そういう真似はやめろ」
「あんたが返事しないからでしょう」
「…」
「この前会ったのって、一年前くらいだっけ?」
「…そうだな」
「あたしに会いたかった?」
「いや…」



至極迷惑そうにそう呟く。
この男には色仕掛けが通用しない。
だから物珍しく、記憶に残った。



「面倒な女だとおもってるよ、お前の事は」
「!」
「正直、迷惑だ。お前が来るとこうなるからな」



月島はこちらを見ない。



「随分酷い言い方じゃない」
「そうでもない」
「え?」
「もっと随分な事、言われてるだろ。お前は」



車は首都高に乗り、ポツリポツリとフロントガラスに雨粒が落ちてきた。
この男の運転は酷く静かで、人となりを現すようだ。
人間性は正反対だったとしても、根の部分で似ている。


圧倒的なカリスマ性を持つ上司の元、
馬車馬のように働かされている所だったり、酷く負けず嫌いだったりする所が。
乗せた足をゆっくりと動かせば、月島の眉間に立皺が入る。



「…ふざけるな」
「ふざけるって、何?」
「やめろ」
「何を?」



ベルトバックル付近を足先で弄り、月島の様子を伺う。
いよいよ我慢出来なくなり、足を払いのけるまで数秒。


こういうやり方しか出来ないのだ。
思いなど伝わらなくて一向に構わない。


指先が触れ、反射的に月島がこちらを見た。
その、驚いた眼差しからの二秒。
間髪置かずハンドルを切り、路肩に停める。



「返せ」
「はい」
「お前…!!」



電子ロックを解除した手錠ごと月島に投げたは、
銃を構えたまま車のドアに手をかけた。当然ロックされている。



「開けて」
「断る」
「あんた今の状況わかってる?」
「逆転は容易だ、お前こそわきまえろ」



後、三十秒。



「こっちも、切羽詰まってるのよ。今は相手してらんないの」
「…」
「救出作戦に行く途中なのよ。月島、分かるわよね」



後、十五秒。



「お前の事情は、」



月島が口を開いた刹那、右後方から車が突っ込み、
激しい衝撃に全身が揺さぶられる。
両腕で身体を庇う月島を見ながら、
強引に開かれたドアから引きずり出された。


これから仲間を救出に行くのだ。
手間をとらせるんじゃねェよと、仲間の一人が呆れ顔で言う。
お前は二度と日本に戻るなとも言われた。












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「…はい、はい」



こんなに手荒な真似をするなよと、
粉々に散らばったフロントガラスを見つめながら呟く。
だから彼の国のやり口は嫌いなんだと一人言ちる。
軽い脳震とうから覚醒すると、そこにの姿は既になく、深いため息を吐いた。


仲間の救出に行くのであれば、確かにそれが優先だ。
何せこちらは鶴見参事官の指示でを迎えに来ただけで、
大した用事は一切ない。
夕飯をどうかな、なんてその程度の用だ。
口が裂けても言えなかったが。


レッカーを待つ間、タバコを吸っていれば
ベルトのバックルが開いている事に気づき、思わず天を仰いだ。





現パロ公安月島!にセクハラをしてみよう回
鶴見さんは参事官です
白石的な足の指の器用さが必要になりますが
とりあえず月島はその辺りに鍵をこう、隠していたと
何かそういう話

2017/11/12

NEO HIMEISM