躍動する罪悪感の向こう側












じっとりと全身が汗ばんでいた。
この小部屋に身を潜め、半月ばかりになる。


あの運命の日、いよいよ戻りたくないと呟いた
尾形は受け入れた。


を連れ、とある宿へ向かう。
数年前に廃業になった廓を改装したその宿は、
様々な理由を持つ男女が蜜月を深める場所として、
秘密裏に人気の場所だ。
当然、はその事を知らない。


赤い格子が酷く目立ち、内装が洒落ている為に
若い娘に評判がいいらしく、そのままの感想を頂戴した。


この部屋を暫く借り切り、をそこに置く。
宿を経営している老夫婦が三食の食事も用意するし、
身の回りの世話をしてくれる。
その分の金は払っている。


は特に何も出来ない娘だ。
元々身体が弱く、淋しさを捨てきれないでいる。
両親はそんな娘を不憫に思い、ずっと海辺の別荘で療養させていた為、
家族で過ごした時間は酷く短い。
時折、勇作も見舞いに出向いていたようだが、
彼の身を案じ、行かないようにとの指示があったらしい。


15まで生きられないだろうと言われていたは、
劇的な回復を見せ、十数年振りに実家に戻る事が出来た。
既に勇作は軍に入りそこにはおらず、父親も滅多に帰る事はなかった。


そんな最中、この尾形と出会う。
一目惚れに近い感覚だった。
尾形とは、不思議なほど、至る所で出会った。


一度目は時めき、二度目で心奪われる。
今思えば全て計算ずくだったのかも知れない。
そんなに容易く偶然は訪れない。


世間知らずの娘を手玉に取るなど、尾形にとっては容易な真似だ。
若い娘が好みそうなやり方で、好みそうな言葉を操り、
好みそうなシチュエーションを作り上げる。
この宿もその一環だ。


まさか家族を捨て出奔してくるとは思わなかったが、
それならそれで好都合だ。
こちらに縋り、薄々その真意に気づいていながらも
信じたいものしか信じない、その傲慢さに安堵する。


尾形には職務がある為、毎日ここを訪れる事は出来ない。
一番最初の二人の夜に、タブーは破られた。
唇をせがむを抱き寄せ、当然の予定調和で抱いた。
それがタブーな事だとは不思議と思えず、他の女と何ら変わらない。
初めてだった分、多少手はかかったが滞りなく破瓜は終了。
もうこれで完全に後へ引けない状態に陥る。


の依存は日に日に強くなり、こちらを求める頻度も高くなる。
これだけしかない、もうこれに縋る他ない状態。
これ以外の何ものも目に入らず、世界の全てが尾形になった状態だ。


職務の都合上、顔を出す事が出来なかった翌日など酷いもので、
ほんの数週間前までは処女だったはずの女が大した化けようだ。
そうしてその都度思う。


あの女もこうだったのかと、
こうして決して掴めない愛を求めたのかと―――――



「父上達は捜しているのかしら」
「…ああ」
「何れここもばれてしまうわ」
「そうかもな」



出来ればこの時、こうして半裸の
絡みついたタイミングが最上だ。
外聞を何よりも大事にするあの男の事だ、
表立って乗り込むような真似は決してしないだろう。


こうして身も心も完全に奪われ
前後不覚になった愛娘を目の当たりにし、どうする。


よく見知ったような場所でしょう、父上。
そしてあなたはよくご存じのはずだ。
こんな状態の女をあなたはよくご存じのはずだ。
身も心も奪われ、もう一人では生きてもいけない。
あなたと同じ真似をした私をどう思いますか。


そんな詰まらない真似をしたくて、ここまで舞台を準備した。
排他的な事ばかりを口にするは、
ここへ来る前の純粋さなどとうに失くした。


そうなると、母親を捨てたあの男の気持ちが否が応にも理解出来、
堪らない気持ちになるのだ。




OKE(尾形クッソエロい)2017
先日更新した拍手の続編です
死ぬほど後味が悪い
あんまり考えてなかったんですが
ゴリゴリの近親相姦ですね


2017/12/08

NEO HIMEISM