私が死んだらあなたは





悲しんでくれますか?













こんな自分に何が出来るわけでもない。
だから考えられる中で浮かぶ、一番有効な真似をする。


何があろうと日向に出ず、こうして暗い場所に留まる生き方を選んだ。
彼はその事に罪悪感を抱いているようで、
そんなところさえも愛しく感じている。


そんな生き方はよせと、
これまでもそんな言葉を頂戴するタイミングは侭あった。
それでも何一つ顧みずこんな泥沼に首まで浸かった。


この広い屋敷は今は亡き両親が に残したものだ。
貿易で財を得た彼らは海の事故で死んだ。


会社を継いだのは父の弟であり、
彼は献身的に を育ててくれた。はずだ。
思惑がどうであったかは分からない。


戦争がはじまり、鉄の需要が爆発的に増え、
事業はより拡大の一途を辿る。


何不自由のない生活。
よくない遊びを覚えたのもこの頃で、それでも叔父は黙認した。
通常であれば咎めるところ黙認だ。
何かしらの腹積もりがあるのだろうと踏んだが、
面倒な為、触れなかった。


戦況が進むにつれ、屋敷には軍人の姿がチラホラと見え始める。
その中には鶴見中尉の姿もあった。


日露戦争が終わり、束の間の平穏が訪れた頃にそれは起こった。
屋敷にて軍関係者を招いての立食パーティが催され、
当然 もホストとして出席した。
若く美しい女はそこにいるだけで重宝される。
加えて両家の娘だ。


青年将校達がこぞって声をかける中、一人の男に目が留まった。
鶴見中尉の隣にいる男だ。


一度気になるともういけない。
この手で触れないと落ち着かない。
我慢を知らない我儘な性質がこの身を滅ぼす。


何食わぬ顔で鶴見中尉に近づき、好奇心丸出しで声をかけた。


いやあ、お嬢さん。相変わらずお美しい。
なあ、月島。お前もこっちに来て挨拶をしろ。


鶴見中尉の三歩後にいた月島は に挨拶をする。
まるで愛想のないその素振りに一瞬にして心奪われた。


今思えば、そうなる事は想定済みだったのかも知れない。
全てがお膳立てされたイミテーションの舞台。
演者が で、ならば監督は。


兎も角、演者以外の全員が の悪癖を知り尽くしていた。
月島と同衾するまで時間はかからなかった。












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同衾した直後に彼の家族の話を聞かされ、激しく動揺した は、
とりあえず正常な判断を失ったし、そんなものを求めなかった。


その話を持ち出したのは叔父だ。
招かれた鶴見中尉と叔父の談笑の最中、
月島の残された家族の話題になった。


紅茶を淹れていた は否が応にも
会話が耳に入って来るもので、酷く動揺した。


そんな の様子を眺め、
まるで予定調和の様に尚も会話を続ける。


動揺しつつもそんな様子を見て、
そういう事だったのかと、理解せざるをえなかった。


叔父は鶴見に を売ったのだ。
最初からそのつもりでいた。
だから咎めず好きに放蕩させた。


嵌められたと思ったが既に遅い。
心は月島に奪われている。


そもそも、彼が戻る保証もないのではないか、
そう都合よく考えだし、口にする事を止めた。


一週間の内一日、夜半過ぎに月島は屋敷を訪れる。
使用人たちも何も言わず、
どうやらいつのまにか両親の残したこの屋敷は、
そういう場所に浅ましく生まれ変わったようだ。


代わりに遊び歩く事もなくなったし、
このわずかな時間を後生の愉しみとして心待ちにしている。


当然、一晩を過ごす事はなく、月島の滞在は2、3時間程度のものだ。
帰り支度をする月島に背後から抱きつき、
熱っぽい眼差しで帰らないでくれと祈る。願う。


いつものお決まりの演技だとでも思ってくれれば最上。
全ては手に入れられないのだと、
頭では分かっているはずなのに心が中々納得しない。


当の月島は月島で当然明言を避ける。
狡い男だと思うが愛している。


それにきっと、これで月島を失えば、どうせ同じことを繰り返す。
自暴自棄なのか、悲しみの果てなのか、
理由は分からないが恐らくそうだ。


叔父もそれを願っている。
彼はそういう風にこちらを使いたいのだ。
だから がこの泥濘から抜け出す術はない。


唯一の希望は、月島の罪悪感だ。
選択肢の中に がいなくとも、心のすぐ側に突き刺さる。
事は既に起こっているからだ。


屋敷を出る際に、言葉少なに、
すまないと呟く男の声にさえ欲情し、涙はすぐに乾く。


月島は去り、又、震える夜が を抱く。
男の温もりが徐々に失せる寝具に横たわり、
数時間前の熱情を思い出していた。





明治時代月島です
既婚設定にしてみました
後味が悪すぎる!!!
本領発揮出来た気がしてます
まああの時代、男の甲斐性って事でね、
許されてたので、、、
この娘の放蕩は許されないだろうが


2017/12/21

NEO HIMEISM