自己満足的な妥協










あの日、腹部に裂傷を負った を拾いに行った門倉は、
そのまま彼女を病院へ搬送した。
容体は思ったよりも悪く、病院に付く頃には既に意識がなかった。
こういう事態に慣れっこの医師に彼女を託し、賭朗へ報告する。
手術中のランプが点いたのを見届け、車へ戻った。


ここにいても出来る事は何もなく、だからといって離れ難い。
が座っていた助手席のシートには血潮がベットリと付いていた。
やる事もない為、とりあえず掃除をする。
黒い革でよかった。目立たない。


拾って車に乗せ、そのまま走り出す。
まだ の意識は明瞭で、会話も出来ていた。
詰まらない話をしていた。



『…で、お前ら付き合ってんの?』
『そんなんじゃ』
『中途半端な関係か』
『そんな立派なモンじゃない』
『へぇ』



ハンドルを握ったまま、他愛もない会話を紡ぐ。
こんな時だからこそ はここにいるわけで、普段ならどうか。
この が賭朗に所属した頃からの付き合いだ。
下心さえなく面倒を見てきたつもりだが。



『普通に付き合うとか、ないでしょ』
『何で』
『だって、こんな生き方だから』



僅かに息が上がってきているように感じた。
は目を閉じ話をしている。



『付き合えんじゃねェの』
『無理よ』



求めてないから。
はそう言い、喋らなくなった。
急いで呼吸を確かめるが、辛うじて心臓は動いている。
しかし意識はない。


簡単な止血を施していたが、
出血は止まる事無く腹部は血液に塗れていた。
これは予断を許さない状態だ。アクセルを踏み込む。
ハンドルを握る掌が酷く滑ると思えば、手袋が の血液で濡れていた。












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と弥鱈の間に関係が生じたのだと気づいたのは、
割とすぐの事ではないかと踏んでいる。
日がな彼女を見ていたからこそ気づいたのだろうか。
酷く距離の近い瞬間があった。
特に心が乱れる事はなかったが、そうなのかと思った。
の事を気に入っていたのは確かだ。
誰も知る由はないし、知る必要もない。


の身体をあれ程濡らしていた雨は既に止み、
強い風により蹴散らされた雲は幾重もの星を残した。
と弥鱈の関係はこちらが思っていたようなものでは
なかったのかも知れない。
こんな星空を見上げて、キレイねと囁き合うようなものではない。
だったら俺が、そうは思うが
横から口を出すのもなんだか違うような気がして、
やはりこのままでいいのだと思い留まる。
勢いだけで動けるほど若くはないのだ。


只、今日この時、この局面で を助けに出向けたのは
誰でもない自分であり、彼女は確かにこの車に乗っていた。
それだけで構わないのではないかと思えた。











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の手術は無事成功に終わり、
半月ほどの入院をする事となった。
翌日には意識も戻り、
様子を伺いに来た能輪と会話も出来たらしい。
顔を出そうかとも迷ったが、結局まだ行けずにいる。
から連絡が来る事もない。元々そういう関係だ。


そうこうしていれば、急に撻器からお声がかかり、
の見舞いに出向く事になった。
この場合は言い訳も出来る。



「大丈夫か〜〜〜? 〜〜」
「撻器さま…!?」
「いい、いい。立ち上がらなくとも結構だ」



撻器が見舞いに来、慌てる を見ていた。
も撻器の背後に佇む自分を見ていたと思う。
時間としては30分もかかっていないと思う。


好きなだけ話をした撻器は上機嫌で病室を出、
それを追った門倉に告げた。
お前はまだ話があるんじゃないのか?
面食らった門倉を置き去り、撻器は颯爽と消えた。



「…元気そうだな」
「おかげ様で…ありがとうございます」
「あいつ、来たの?」
「あいつ…?」
「あいつ」
「…あぁ。来てない」
「俺は言ってねェから」
「…そう」



そんな事よりも何か飲むかと続ける を置き、
門倉も部屋を出た。
病院を出て車に戻ると、
消えたはずの撻器が助手席に座っており驚く。
慌てて車に乗り込めば、若いねェ、等と
軽口を叩き出すものだから、曖昧に笑って濁す羽目になった。


撻器の口撃にどうにか耐えつつ、車は賭朗に到着した。
この人は何をどこまで知り尽くして
いるのだろうと思ったが、そういう相手だ。仕方がない。
見送り、酷く疲れたと肩を回す。


ふと視線を上げれば壁にもたれかかった弥鱈がいた。
流石に噂を耳にしたのだろう。
だからって、わざわざ俺が教える道理もないだろ。
だって。



「…入院してるぜ」
「!」



通り過ぎる瞬間にそう言えば、
弥鱈はそうですか、等と返したように思う。
振返れどもそこにはもう弥鱈はいないし、
何故今自分がそんな事を口走ってしまったのかも理解出来ない。
の為?分からねェよ、そんなの。



「…男伊達ェ」
「…ご勘弁を」
「ぐはぁ」



やはり何故かそこにいる撻器に一礼をし、その場を離れる。
もしこれで が死ぬほど喜んだとしても、
きっと自身の気持ちは一つも変わらない。


あの日 の血で赤黒く染まった手袋はすっかり白さを取り戻し、
何事もなかったかのように日常も始まる。





続きです
実はこの話、続いたのです
というか、今回は雄大くんverという事で。。。
むしろ撻器さまverと言っても過言ではない

これもあれです、うちのサイトでいう所の、
シャンクスみたいなポジションです
分かる人だけ分かってくれ。。。

2015/09/28

NEO HIMEISM