掴めない夢物語ばかり追いかけたがる

閉店後の店内は薄暗く、
テーブルに椅子を上げたまま一気にフロアのゴミを片付ける。
この時期のバイトは最悪だ。
自分たちも含め学生連中は皆、一様に休みに入り、
やれ合コンだやれ飲み会だと、大人数の予約が目白押し。
挙句、帰省しますだとか、予定がありますだとか。
そんな事を口々に言う。
実家に帰らない尾形にしてみれば、頭数が揃わなくなるだけであり、
繁忙期に限ってこうなりやがると溜息を吐く。

それでも、歴の長い面子さえ揃えばどうにかなるもので、
同じく実家には帰らないと杉元が、
奇跡的に同時刻にシフトインする事となった。
基本的にはシフトが被らない三人だ。

破竹の勢いでホールを回す杉元と、
キッチンを取り仕切る尾形と、こちらは年中シフトインの白石。
大口の予約を難なく乗り切り、本日もどうにか閉店までこぎつける事が出来た。

モップを片手に店内を走り回っている杉元は、
深夜だというのにやけに元気で、その元気の理由が目に見える為、呆れる。

だ。
あの男はの事を気に入っていて、
恐らく今日この日、この夜に焦点を絞っている。

下心が丸見えな、こちらが見ていても不安になる有様だ。
当のは、そんな杉元の腹の内に気づいているのかいないのか
(いや、こういう場合は大概の女が気づいているが)そつなく杉元を交わし、
本人に悟られないよう防衛線を張っている。
店内でもよく行われる攻防戦だ。
別にお前たちのは見たくないんだがと、キッチンへ視線を戻す。

「あいつ馬鹿だよな」
「そうだな」
「、確か男いたろ」
「そうだっけ？」

どうやら白石もフロアの攻防を見ていたらしい。

「俺、何回か見た事あるんだよな、とその男」
「へェ」
「へェ、って、どんな奴か気になんねぇの？」
「別に…」

正直なところ、がどこで誰と何をしていようが、
こちらには一切の影響がないわけで、無論興味も更々ない。
お前は本当、そういうところあるよなあ、だなんて
それらしい事を白石は言うわけで、
そうかな、なんて曖昧な返事でその場を濁した。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

閉店作業が終了した直後辺りだ。
売り上げを取りに来たオーナーが、本日の頑張りを健闘してくれ、
稀に生じるタダで飲み食いサービスを実地してくれた。
学生には随分ありがたい特典であり、
今日みたいに売り上げが好調な時や、オーナーの機嫌が良い時に発生する。

片付けはちゃんとしていけよと言い残し、オーナーは颯爽と帰宅。
行きつけのキャバ嬢の元にでも向かったのだろう。
我々の血と汗の結晶は若い女に吸い込まれていく定めだ。

キンキンに冷えたグラスにサーバーからビールを注ぐ。
おつかれさん、皆一斉にそう言い乾杯した。
つまみは白石が適当に作る。立ち飲みの状態だ。

「で、何か妊娠してるかも知れないって言われたらしくて」
「本当かよ」
「どうすんのそれ」

ハイペースで飲み明かす杉元が、
大学の同期の話をし出し、ペースは更に上がる。
通常ではありえない顔合わせに、この飲みの席だ。
先程までフロアで熱心にを口説こうとしていた杉元は、
そんな素振りを一切見せず下らない話を吐き続ける。

こういう何ものにもならない、酷く嘘くさい雰囲気が好きだ。皆
、本当の事は何一つ言わず、虎視眈々と狙っている。

散々飲んだ挙句、潰れた杉元の介抱は白石が買って出た。
買って出たというか、白石も相当飲んでいた為、
2人で酔いがさめるまで店で寝ていくわという話だ。
酷い話ねとが笑う。
足取りが覚束ないこの女も割と飲んでいるはずなのだが、自覚は薄いらしい。

ドアを開け外に出る。
終電後の街は流石に静かだ。
ヘロヘロながらも何故か見送る白石を見届け、ふと気づく。

「お前、家、どっち？」
「えぇ？」
「えぇ？じゃねぇよ」

漂う白々しい空気。
この冷え切った夜の匂いとは又違う、見透かしたそれ。
一緒に店を出た為、てっきり徒歩圏内かと勘違いしていた。

「…どういうつもりだよ」
「別に…分かるでしょ、そんなの」
「…」

だったらさっきの杉元は、だとか、
お前、男いるんじゃねぇの、なんて、そんな下らない事を言う気もない。
男がいたって構わず、だからといって後々面倒は避けたい。
極めて合理的で、最も最低な考えだ。
そればっかりはどうしたって理解出来て仕方がない。

始発までな。
そう言えば、声を出して笑ったが指先を絡めてきた。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

始発までの時間は3時間程度で、
流石にこのままを自宅に連れ込む気にはなれず、
駅側のラブホテルへ縺れこんだ。
この界隈はデリヘルも多い為、それ専用の時間帯の営業形態が多く
(要はご休憩が多いという事だ)こんな時間帯にも関わらず奇跡的に空室があった。

まだ十二分に酔いの回った状態で、とりあえず一発済ませる。
何の為の行為なのかよくわからないが、
こういう場合の交渉なんて大概がそんなものだ。
特に意味はなく、目的もない。

「…さっき、杉元が話してたでしょ」
「どの話だよ」
「妊娠してるかも知れないって話」
「そういやしてたな」
「そんなの嘘に決まってるじゃない」

愛されてるって実感したいだけなのよ、多分ね。

「面倒な女だな、お前もそうだってのか」
「別に…」

側の事情は知らないし、知りたいとも思わない。
踏み込まれても面倒だし、踏み込むなんて真っ平御免だ。
そもそもこの数時間は存在しなかったはずだし、
明日は三時限目の講義には出ないとならないし、その後はバイトだ。

今の男との何某を話し始めたを置き座ったままシャワーへ向かえば、
今更後悔した彼女が人知れず泣いており気が滅入る。
次は杉元を誘いな、喜ぶぜ。
そう言えば最低ね、がそう言うものだから、
お前だってそうだろ、そう返し笑った。

現パロ大学生篇です
新しいシリーズになるのか
とりあえず今回は尾形がメインなんですけど、
現パロだろうが学生だろうがコイツ変わんなくね…？
と思いました(人の女に手を出す)
バイト先に一極集中です
そしてこの主の彼氏は月島(社会人)です
仲間内でヤりすぎィ！

2017/12/28

NEO HIMEISM