ただ難しい単語よりもありふれた言葉で伝えたい

• いいじゃん、いいじゃん。
  だってもう終電ないし、今更カラオケとか怠くね。
  大丈夫大丈夫、別に何もしないからって100回は繰り返して、
  そんでマスターからの、もう、うちも閉店ですよ、
  なんて助言にも後押しされてようやく連れ込めた我が家
  (このお礼は必ずするから！)
  
  
  
  部屋の掃除だって完璧で、正直なとこイメトレも散々やってる。
  失敗はない、ありとあらゆるパターンを想定したはずだ。
  
  
  
  キレイにしてるじゃん、なんての声を聞きながらも
  当然、気も漫ろで、冷蔵庫から冷やしておいたカクテルを取り出す。
  
  
  
  何食わぬ顔ではい、だなんて渡せば、
  一瞬間を置いたがそれを受け取る。
  
  
  
  いや、だから全然、変な事とか考えてないってマジで。
  笑いながらそう言い、隣に座った。
  
  
  
  始発が動きだすまで後、三時間程度だ。
  そう考えると余り時間はない。
  ここで勝負を決めないと、二度目はないという事だ。
  
  
  
  一口、二口とアルコールを含み、半ば抜けかけていた酔いを取り戻す。
  別にそれがないとダメだってわけじゃないけど。
  だけど彼女のガードは異様に固くて、
  それこそアルコールの力を借りなければその心にさえ触れられない。
  
  
  
  でもだって、ほら。
  何もなけりゃ来ないだろ。俺の家。
  
  
  
  「ちょっと、杉元」
  「ん？何？」
  「近い」
  「いいじゃん」
  「えぇ？」
  「ほら、うち狭いしさ」
  
  
  
  思いがどうやら先走り、気づけば０距離まで近づいている。
  でも大丈夫、何もしないし、ほら俺は最初に言ったろ。
  何もしないって。
  
  
  
  何て言いながらもうこの腕はに触れていて、
  何なら彼女を押し倒しているんだから手に負えない。
  
  
  
  そんな事だって分かってたわよって言う彼女も彼女で、
  そりゃあないんじゃないのって悪態の一つも吐きたい。
  
  
  
  何、お前。こういうの馴れてんの。
  酔いの序でに転げ出た最低な言葉。
  あんた、そういうとこよ。
  眉間に皺を寄せたが杉元の顎を掴みそう言う。
  
  
  
  「俺の事好きになってよ」
  「…そういう事、この場面で言う！？」
  「もう、俺、」
  
  
  
  そういうのよく分かんないから。
  
  
  
  「よく分かんないとかじゃなくて、ねぇ！」
  
  
  
  何て言いながら押し返す手に力が入っていない事も知っているし、
  それがポーズだという事も分かっている。
  
  
  
  だけれど、こういう場合、彼女が欲しがる言葉だけが分からなくて、
  もう二の句が告げられない。
  
  
  
  唇を僅か尖らせるとの距離は数センチ、
  やんわりとした抵抗を見せる彼女の手首を握った今。
  事が終わったら好きになってよだなんて、
  それは余りにも都合が良すぎるだろうか。
  
  
  
  

• 大学生シリーズの杉元です
  私はこういう若者のキャッキャウフフしてる
  感じの話が死ぬほど好きです
  あと、とりあえず杉元を贔屓している
  ＊ちなみにこの後、杉元は振られます
  
  
  2018/01/05
  
  NEO HIMEISM