一緒に枯れても



一つの花にはなれはしない













夜景の有名なホテルだ。
近郊の夜景が一望出来、兎角女性受けがいいと評判のホテル。


視界を遮るものなど何もなく、
只、果て無く続く闇の中、幾重もの煌めきが色とりどりに点滅する。
高層階の部屋は一面が窓になっており、
噂の夜景を堪能出来る造りになっていた。


だからといってこの に対しては何ら効果もないのだろうし、
御世辞程度に綺麗ね、だなんて一言を頂戴するのも億劫だ。


学生が何をと言われようが、このホテルでは
一族総出で昔からのお得意だし、
そもそも出費を気にして生きてきた例もない。
全てはカード払いで済ませるし、
その費用についてガタガタと言われた事もない。


どこか洒落た店でワインでも、なんてそんな関係は望めず、
あくまで秘密裏に蝕むこの時間だ。
彼女の好きな銘柄のワインはルームサービスで誂えた。
それでもきっと、何一つ心には響かない。



「良くない真似だわ」
「それでも来たろ、お前は」
「何故だか分かってる癖に」



先に部屋で待っていた鯉登は、
ようやく姿を見せた に向かい、
遅いぞ、なんて悪態を吐いた。


アウターを脱ぐ は特に何も言わず、
チラリと夜景に視線を送る。


キレイね。
そう呟けば、そうか、なんてやはり憎まれ口を叩いてしまい、
少しだけ自分が嫌になる。


それよりも嫌になるのは、
そんなこちらの腹の内さえ読んでいるような の眼差しで、
ここにきて彼女が初めて笑んだ。
気づかない振りをしてやり過ごす。


は基本的に、こちらの用意した舞台で華麗に踊る。
自分に何が求められているのかを察する能力に長けているし、
そういう土壌で育った女だ。


美しくそこに佇み微笑むだけの人生。
お飾りにしては目を惹く。


初めて と出会ったのは
自宅で行われた支援者向けのパーティであり、
とある財界人の連れて来たゲストという触れ込みだった。
確か鯉登がまだ高校生の頃だったと思う。


酷く品の良い、それでいて目を惹く女で、
すぐに触れたくなったが はまるで相手にせず
(今、思えばそれも当然で、
15、6のガキなど相手にする道理もなかったのだが)
非常に歯がゆい思いをした。


自分でも驚いたのだが、非常に執念深い性質らしく、
虎視眈々とその日を待ち続けたのだが、丁度一年半後か。
とある青年実業家と結婚したという噂が耳に届いた。
丁度、次の選挙に初出馬をする予定の男で、
まだ公に公表されていない情報だ。


何故それを知っているのかといえば、
丁度、相談をしに来ていた姿を見かけたからであり、
成程と時間を温めた。


その時の選挙戦にどうにか勝ち抜いた男は、
議員生活をスタートさせ、 は議員夫人として
相変わらず華やかに輝いていた。


次の転機は、丁度、鯉登が大学に入った頃の事だ。
とあるスキャンダルがすっぱ抜かれ、議員生活に暗雲が立ち込めた。
金銭絡みのトラブルだった。


そのトラブルを鯉登の父親は多額の金で握りつぶした。
元々、通常であれば表沙汰になり得ない程度のトラブルではあった。
出る杭は打たれるというやつだ。
恐らく黒幕は鶴見幹事長で間違いない。


流石、敬愛する鶴見幹事長だと胸を熱くしながらも、
もう一つの可能性にかける。
表沙汰には出来ないまでも、その節はと当然挨拶をしに来る。
そこを狙った。



「飲むだろ」
「私の好きな銘柄ね」
「あぁ」



グラスに注ぎ渡す。
辛口。
の赤い唇より深い色だ。


一気に飲み干すのは罪悪感を隠す為。
こんな関係が半年程続いている。


あの日、挨拶に来た を扉の外で待ち伏せ、連れ出した。
鯉登の名を最大限に使い陥落させる為にだ。
連れ出された時点で不安げな表情を浮かべていた は、
案の定かと言わんばかりの絶望的な顔色になったが、
それさえも酷く劣情を掻き立て、今更、心は抑えも利かない。


脅したりすかしたりしたわけではない。
只、現状と未来の話をしただけだ。
全てに含みを持たせ、何一つ確信をついた話はしない。


それだけで賢しい彼女は全てを悟る。
労せず を手に入れた。



「…!」
「動くな」



まだ口内にワインが残っている の唇を欲す。
唇の端からワインが零れ の胸元を当然汚した。


の右手からワイングラスを受け取り、サイドテーブルに乗せる。
ワインごと舌を絡め酷く生ぬるいそれを味わい、
シミになるじゃないと呟く彼女に、捨てろよと囁き、
着替えは用意してあると耳打ちした。


三回目の逢瀬から続く鯉登の悪癖だ。
身も心も犯すように出かけた際の服装をここで捨てさせ、
新しい服装で送り返す。


別にこの部屋で何かを分かち合うわけでもなく、
心をどうこうするわけではない。
完全に手に入れてその先を求めるつもりもなく、
今だけの刹那的な遊びだと承知している。


清濁併せ呑み、 は肌を見せ、その身を捧げる。
恐らくは愛する男の為にだ。


幾度も幾度も、こんな同じような夜を見送り、
それでも の美しさは翳らない。
こんな真似でもしなければ触れる事さえ叶わないような女だ。
故にその味も格別で、忘れられない。


これまで一度として確かめた事はないし、
恐らくこれからも確かめる事はないのだろうが、
心の中が知りたくて遠回しな真似をしてしまう。


従順な は決して嫌な素振り一つ見せない。
それが誰に対する忠誠なのかは火を見るより明らかだ。
今だって触れているこの身体は容易く手に入ったが、
この女の心は手に入らない。
そんなものを欲しがっているかは別として皮肉な結果だと思う。


濡れた衣服を脱がせ、 の手を取り窓際へ近づく。
背後から首筋に顔を埋め抱き締めた。
の手が窓ガラスに触れる。



「…誰かに見られちゃ事よ」
「誰に見られるんだよ、こんな場所」



神様か何かか?



「凄く高い」



ガラス越しに見える の表情は憂いていて、
この思いを伝えるのはやはり只の罪なのだと思い知る。


その遊びはなるべく早めに止めて下さいよと、月島は毎度口うるさい。
危険性が高いなんて、そんなのはとっくに承知だ。
下らない真似をしているのだと知っている。


それでも不甲斐ないこの身体はだらしなく求めてしまう。
その事にも、 は気づいているのだろうか。






KO鯉登第二弾です
金を湯水のように使えるので大変良い
人妻に手を出す男、鯉登坊ちゃん
露呈しても金で黙らせます(皆が一丸となって)
悪い遊び

2018/01/09

NEO HIMEISM