誰も神の手に触れた者はいない

• カタカタカタカタと、ガラステーブルの上で
  先程からひっきりなしにスマホが震えている。
  一旦、止まったと思えば数秒後に又、震えだし、
  充電がなくなるのではないだろうかと、そんな心配さえしてしまった。
  
  
  特にこれといった理由はないが、
  ベッドからテーブルまでの距離を動く事が出来ず、見送っている。
  この寝具から這いだすだけの理由が見つからないだけだ。
  
  
  あれはいつぞやの怪異からか、若しくは臥煙かも知れない。
  どちらにしても厄介で御免被りたい着信だ。
  彼女には大方の事が知れているわけだし、
  今更どうこう言われる筋合いもない。
  
  
  誰かの役に立つのはもう面倒で、自ら動く事も好きではない。
  この力は自分でも言うのも何だが非常に便利だ。
  だから臥煙はこちらを手放さない。
  の意思を余り重宝しない。
  彼女の世界に於けるエレメントとして最後まで使い捨てるつもりだ。
  まあ、唯一の救いはそれを隠さないという点か。
  
  
  
  「あれ、カタカタ震えてるぜ」
  「あんた怖くて触れないんでしょ」
  「臥煙さんに束縛されるなんて、俺は御免だね」
  
  
  
  この寝具の中は果て無い海だ。
  生温いシーツの上でメメと共に彷徨う。
  
  
  臥煙にはきっと知れているはずだ。
  だが、未だ面と向かって問い詰められた事はない。
  まあ、それはが逃げ回っているからだが。
  
  
  まるで自分の所有物かの如く振る舞われる事には慣れているが、
  従順に従っていたわけでもない。
  抗えず、仕方なしに従っていただけだ。
  
  
  臥煙はそんな真似を決してしない。
  彼女は酷く賢しい。
  
  
  
  「そんなのは、あたしだって御免なんだけど―――――」
  「そうは思えないけどねぇ」
  「この前の案件、きれいに終わってないのよね、実は」
  「…マズイだろ」
  「だから、多分、その件」
  
  
  
  この、臥煙のテリトリーから少しだけ離れた場所に
  曰く付きの場所がある。
  表立っては知られていない、とてもよくない場所だ。
  
  
  随分昔、幼い頃に両親から引き離された子供たちが
  殺され遺棄された場所。
  理由は口減らしだったか。その時代には、そう珍しい話でもない。
  貧しい村ではよくある事で、
  現代の倫理観とそぐわない話も横行している。
  
  
  そこの浄化を任されたのだ。
  酷く気の滅入る話で、まるで気は進まない。
  そもそも子供は好きでないし、
  もう怪異の形さえ成していない古い化け物相手に最善策もない。
  化け物もそうだが、子供も話は通じないなと気づき笑えた。
  
  
  
  「まさか、遺言ってわけじゃないだろ」
  「そんなつもりないけど」
  「明日死ぬ女を抱くなんて、ゾッとしないね」
  
  
  
  この身は怪異を喰らう。
  どう消化しているのか、自身の身体さえ理解しちゃいないが、
  文字通り只、喰らう。頭からバリバリとだ。
  
  
  その様が余りにもシュールな為、基本的に一人で取り掛かる。
  見た目が悪すぎるからだ。
  だけれど、それも不十分だ。
  
  
  あの子供たちの数が多すぎたのか、味が問題なのか。
  酷く消化不良で体調が思わしくないのだ。
  
  
  余りにも鳴り響く為、流石に寝具から抜け出したは
  冷えた床を素足で進む。
  充電が残り28％のスマホを手に取り、
  鬼のような着信を眺め溜息をひとつ。
  
  
  
  「…えぇ？」
  「どうした？」
  「流石に驚いたわ」
  
  
  
  あんた。
  そう言い振り返る。
  
  
  
  「あたしをどうにかする気なの？」
  「…」
  「お前は餓鬼と共存してる」
  「えぇ？」
  「それはお前のせいじゃない。お前の家に昔から憑くものだ」
  「…」
  「臥煙さんは知ってたのさ」
  
  
  
  頭からバリバリと子の姿をした化け物を喰らう。
  喰えども喰えども奴らは沸いて出て来る。
  
  
  何故、怪異を喰らうのか自分でも分からないが、
  確かに幼い頃から同じ真似をしていた。
  
  
  両親は咎めず、祖父母は崇め奉った。
  を飾り妙な新興宗教を起ち上げ、荒稼ぎした。
  そこに臥煙が来たのは、確かが15歳の頃ではなかったか。
  
  
  それからの記憶はとても曖昧で、よく思い出せない。
  何故、今、一人なのか。家族はどこへ消えた。
  
  
  
  「嫌だ、本当に最悪」
  「罪の意識からは逃れられない」
  
  
  
  一度犯したそれは忘れられない、逃げられない。
  お前はどうかな、。
  
  
  
  「臥煙さんに怒られるわよ」
  「あの人の仕出かした罪だろ」
  「彼女はそう思ってない」
  「お前を助けたと言うだろうね、あの人の言いそうな事だ」
  
  
  
  弱者を虐げ金を荒稼ぎしている祖父母を喰らい、
  うろたえる両親も喰らった。
  人を喰ったのはその時だけだ。
  
  
  意識はあった。この身は共食いをした。
  恐ろしい話だ。
  
  
  だから誰にも言った事はない。
  血の一滴も残さないよう、内臓も骨も全てを喰らい、
  この身に餓鬼の影をしっかりと感じた。
  
  
  ようやく満腹になったねぇ、。よかったじゃあないか。
  
  
  一部始終を眺めていた臥煙はそう笑った。
  
  
  
  「…何？人を喰えと？」
  「どんどんと人外に近づくだけだぜ」
  「あんたはそれと寝てるのよ？」
  「罪ばかり増やすのかい、」
  
  
  
  こうなる事が分かっていたから、
  その男と寝るのはオススメしなかったのだと、臥煙はそう言うのだろう。
  罪を自覚させ、人としての感情を植え付ける。正しい事だからだ。
  
  
  だけれど、その正しさが合わない人間もいる。
  まるでアレルギーのようにの身体を脅かす。
  
  
  手の中で又、スマホが震えた。
  何故だが酷く、ゾッとした。
  
  
  
  
  
  

  久々に書いたメメです
  私はメメが途方もなく好きなのですが
  メメを書くとこういう風にとりとめのない話に
  なる可能性が非常に高い
  餓鬼好きよね我ながら…
  あと、臥煙さんを絡ませるのもすごく好き
  臥煙さん絡むとより一層、話が迷走する、、、
  
  
  2018/02/02
  
  NEO HIMEISM