相変わらずご執心だなと声をかけられ、思わず歩みを止めた。
聞きなれた声だったからだ。
声の主は足音だけを残しながら路地裏へ消えてゆく。
まるで誘うかのように。



普段ならば決して乗らないが、
何となく付けてみるかと思ってしまった。
お前の罠に嵌ってやるよと、その誘いに乗ってやると。



その気分のブレに理由はあるし、
恐らくあいつにも知れている。
あの男に限り偶然は必然となる。



「…フロイド」
「そんなにあいつが好きか」
「そんな詰まらない話をしに来たわけじゃないでしょ」
「ちょっとしくじっちまっただけだ。泊めろ」
「…はぁ?」



この男との腐れ縁は十年弱になるのだろうか。
初めて出会った時もはこの国で彼を守っていたし、
今でも守っている。
このフロイドという男はあの頃から
各国に指名手配されながら彼のような人間に情報を提供したり、
時には機密を奪ったりしながら生きている。
互いにあまり変わり映えの無い人生を送っている。



話を聞くところによると、
本日出国する予定だったがトラブルが起き、
延期になってしまった。
現在はこの国でも指名手配を受けている為、
下手に動きたくはない。
取引した組織が内部抗争を始め、
フロイドどころの話ではなくなった、等々。



断りたい気持ちしかなかったが、
この男から逃げ回るのも得策ではないし、
そもそもこいつは絶対に諦めない。
仕方がないので、早々と部屋に案内し仕事に戻った。
それが大体、13時くらいの出来事だった。



















「…勝手に食ってんじゃないわよ」
「おかえり、…お前ん家、ロクな食い物ねェな」
「帰れ」
「お前、一応女だろ…この様子じゃ自炊もしてねェし、
 食い物はサプリかテイクアウトってとこか。
 俺も人の事は言えねェが、ちゃんとしろよ」



フロイドはそう言いながらコーヒーを淹れている。



「ちゃんとしろって、どういう事よ。
 そもそもあんたにそんな事言われたくないんだけど」
「ま、そりゃそうだな」



そんな風に詰まらない事を言ってくるような人間は、
このフロイドの他、誰もいない。
何故なら、このが彼に心奪われている事を
皆、知っているからだ。
この小国を収めるあの男の愛玩具として生きている事を
皆、知っている。



「お前、まだ愛人ごっこやってんの?」
「…」
「いい歳なんだから、もうやめれば」
「好きとか嫌いとか、もうそういうのじゃないのよ」
「お前の弟、殺されてるよ」
「えっ?」
「お前が今、映像で見せられてるの、あれ、別人だから」



これは泊めてくれた礼だと告げ、フロイドは話を続ける。



「あいつはお前が欲しかっただけだからな。
 お前の願いを叶える道理はなかったってわけだ。
 それに、お前の帰る場所があるってのも都合が悪いし…」
「…」



この男が提示する情報は正しい。
この男は正しい情報にしか興味がないからだ。
知っている。知っている。



弟を人質に取られ関係を強制され、
ぼんやりと愛情のようなものが芽生え、
それが幻だと知り、それでも関係を続けていた。
そう言えばこの気持ちが幻だと知らせたのも、
この男ではなかったか。十数年前の。



「明日、一緒に出るか?この国。その位なら手伝ってやるよ」
「…出ないわ」
「へェ…そっち取るの」
「とっておきの機密でしょ、あんた、気に入るかしら」
「悪かねェ」



十数年前、彼との関係に散々苦しみ疲れた
の心の隙間に付け入った。
この国を支配するあの男が生理的に受け付けなかったからだ。
あの男の癖も、この女が抱える矛盾もすぐに見て取れたし、
哀れだと思った。
只、これはもう洗脳に近い状態だ。
言葉で伝えたところでの心には届かない。
だから寝た。



「この国を獲ろうってのか、お前」
「十数年前とは違うのよ」
「お前と話してると滾るんだよな…」



ベットに座りの手を引いた。
彼女は抵抗する事もなくフロイドの上に落ちて来る。



は明日、彼を殺すのだろう。
そうして彼がこれまで培った全ての力を手に入れる。
金も、権力も、名声も。
陰謀が成功する瞬間の快楽は何にも変えられない。
そりゃあ俺も固くなるぜ。



「あんた、あたしの事が気に入ってるのね」
「興奮するんだよ、お前を見てると…」



の手が起立した性器を握る。
息の止まる感触。
目の前にいるを見ながら口付ける。



わざわざこんな詰まらない事を言うだけの為、
こんな嘘を暴いたのだ。危険を冒してまで入国をして。
その気持ちはに伝わらない。
が彼に誤った恋心を抱いていた事を、
その矛盾を暴いた時から恋していた。



だけど伝わらない。あえて伝えはしない。
きっと、恋してるのは俺だけ。
別にそれでもいいのだ。



これからこの女は国を獲り、一国一城の主となる。
そうしたら又訪れよう。



いつまでも、恋をしているのは俺だけだろうか。







見据えたその先に





フロイドかっけーな、
と梶ちゃんとの戦いを読んで再度思い、
書こうとしたんだけどこの人ビビるくらい書き難い、、、
というか、出番が少なすぎて資料が足りんよ
とりあえずあの戦いの最後のコマ、
「こりゃ何の陰謀だよ…」ってとこが大好きです
フロ梶いけんじゃねえかと思いました
(私の推奨CPは貘ハル、ないしは巳鱈です)

2015/10/05

NEO HIMEISM