昇る陽を罵倒しながら

• あれ、お前何してんの。
  ギターケースを肩にかけた洋平が、
  アパートの外階段を上りながら笑った。
  酷く寒い冬の夜だった。
  
  
  階段に腰かけ煙草をくわえた は、
  オーバーサイズの黒いパーカーを伸ばし膝を抱えている。
  
  
  ここ最近はずっと黒のボブカットで、酷く血色の良い唇が目を惹く。
  爪先は短く赤く、どうやら又、睫毛のエクステを増やしたようだ。
  
  
  画一的なその見た目。
  まるでそうでなければならないと、強迫観念にも似たそれ。
  
  
  彼女がその通過儀礼を経たのはいつ頃なのか。
  少なくとも昔はそんなに不自然ないでだちではなかったはずだ。
  
  
  この と二階堂兄弟は幼馴染だ。
  互いの母親も幼馴染であり、子が大学に進学した今でも頗る仲がいい。
  何不自由のない地元での生活。
  大学進学を期に実家を離れ、気づけばバンド活動にどっぷりだ。
  大学へは碌々通っておらず、それと同時に実家とも距離が出来た。
  
  
  恐らく今年は出席日数が足りない。
  留年はほぼ確定といえる。
  
  
  二つ年下の も大学入学を期にこの町へやって来た。
  この、音楽と青春が腐り合う町に。
  
  
  
  「で、お前なにしてんの」
  「…別に」
  「何だよ」
  
  
  
  洋平が隣に座り込む。
  実は、この男を待っていた。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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  丁度、一時間ほど前。
  は洋平たちの部屋を訪れた。
  
  
  連絡先は当然知っているのだが、
  例の彼女の存在が指先を躊躇させる。
  
  
  幼い頃から洋平の背を追っていた。
  物心がついた頃には既に好きだったような気がする。
  
  
  だけれどこの男は不思議なくらいこちらの思いに無頓着で、
  やれ中学の頃は同級生の彼女がいて、
  高校に入ればその彼女と別れ、
  それでも何故かしら特定の彼女は存在し、
  いつまで経っても妹扱いという呪縛から逃れる事が出来なかった。
  
  
  試しに他の男と付き合ってみたが、
  やはりどうしても心が認めてくれず、
  こうして大学進学を理由に追いかけてみたものの、
  当然というか、案の定というのか、やはり洋平には女がいた。
  
  
  現在、洋平は年上の女と付き合っている。
  音楽業界で働く女だ。
  ライブ活動の資金源は全てその女。
  
  
  音楽業界界隈に潜むそのての女は多い。
  青田買いを好み、それをステータスとする。
  
  
  女の部屋と自分の部屋(浩平と一緒に住んでる)
  を行ったり来たりしている洋平の居所はとても掴み辛い。
  
  
  自身もこの近くに部屋を借りており、
  こうして気が向いた時に顔を出しているわけだ。
  
  
  その日も当然、洋平はいなかった。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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  インターフォンの直後、スマホが鳴り、
  どこぞの女にフェラをさせている浩平はそれに手を伸ばした。
  着信相手は 。
  
  
  女の頭を押し立ち上がれば、
  性器から口を離した女が酷く不快そうな顔でこちらを見上げた。
  
  
  
  「はぁ！？今、出る！？信じらんない！」
  「うるせぇ」
  
  
  
  そう吐き捨てパンツをはいた。
  とりあえず手近にあったパーカーを羽織り玄関へ向かう。
  まるで、何食わぬ顔で。
  
  
  ドアを開ければそこには当然 がいて、
  僅かな落胆を投げかける。
  
  
  
  「どうしんたんだよ」
  
  
  
  開いたドアの隙間、浩平の後ろ。
  黒のヒールが転がっていた。
  すぐに察する。
  
  
  
  「あ、ごめん」
  「あ？気にすんなよ」
  「洋平は？」
  「戻ってねーけど」
  「そっか、邪魔してごめんね」
  
  
  
  そう言いドアを閉める。
  は昔からそうだ。
  昔から洋平の後を追って、いつでもどこでも、いつまでも。
  地元を離れこんな町に来てまで追いかけている。
  何年も何年も飽きもせず、いつまで経っても指先は届かない。
  ご苦労な事だ。
  
  
  鍵を閉め踵を返す。
  視線を感じた。
  
  
  おんなじ顔なのに残念ね、超ウケる。
  素っ裸の女がベッドの上で笑っていた。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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  「あいつ、また女連れ込んでんだろ、仕方ねぇな」
  「邪魔しちゃって。悪い事しちゃったな」
  
  
  
  邪魔しちゃ悪いもんな。
  そう言い、ここで時間を潰す。
  
  
  
  「年末、実家帰るの？」
  「帰んねーよ、ライブあるし」
  「お母さんたち心配してるよ」
  「親父とか超キレてっからな、俺たち全然大学いってねーし」
  
  
  
  お前も行ってないだろ。
  突如変わる口調。
  ふと顔を上げれば至近距離で洋平と目が合う。
  
  
  
  「え？」
  「最近、仲町に屯してんの知ってんぞ」
  「バイトだし…」
  「お前はちゃんと大学行けよ」
  
  
  
  昔と変わらない口調で、眼差しで洋平はそう言う。
  だって、いつだってどこにもいない癖に心配なんてしないで。
  ぎゅっと拳を握る。
  その刹那、休みなく繰り出される洋平の攻撃。
  
  
  
  「あと、手当たり次第バンドやってるやつとヤるのやめろ」
  「！」
  「狭い世界だからさ、横に繋がってんだよ」
  
  
  
  どうして。
  それだけが聞けない。
  
  
  どうしてよ。
  どうして気にするの。
  あたしがどこで誰と何をしてようが、関係ないでしょ。
  だってそうでしょ。
  
  
  そうこうしている間に、洋平はいつもの呪詛を唱える。
  
  
  妹みたいに大事なヤツのそういう話聞くの、嫌だろ。
  
  
  聞き慣れたその言葉を耳にする度に泣きそうになる は、
  やはり今回もそれを堪えきれず膝に顔を埋めた。
  よくも、よくもそんなに残酷な言葉を。
  
  
  そんな の隣、泣くなよと頭を撫でて来る洋平は、
  その意味を、涙の意味をはき違えている。
  
  
  洋平の手のひらは温く、相変わらず大きかった。
  
  
  
  
  
  

  大学生現パロシリーズ
  二階堂兄弟です
  私は二階堂兄弟をはき違えている
  あの見た目で勝手にバンド野郎にしたのですが
  今思えば、阿片後の浩平のイメージなんじゃないかと
  シド・ヴィシャス的な
  洋平が死んだ後に薬に手を出す未来予想図
  というか、こういう感じの主人公を書きたかったのです
  最近、バンドマンにむらがる女の子の話を読んでたので
  幸せって何だ
  
  
  2018/03/02
  
  NEO HIMEISM