先に謝るのはいつも僕の方だった
街中で偶然に出会う、だなんてまるでドラマみたいな展開だ。
嘘だろ、だとか、マジかよ、だなんて言葉くらいしか出て来ないし、
馬鹿みたいに動く事も出来やしなかった。
笑えるだろ。
何でお前が、っていうか、そもそもお前今までどこで何してたの、だとか、
あれ?髪の毛切った?とかさ。
色々言いたい事はあったってのに、もうてんでダメ。まるでダメ。
あいつはあいつで一瞥だけくれて、さっさと進んじまうし、
俺はほら、これ。ピザの配達があったから。
いや、別にこんなんバイトだけど俺ってやっぱそういうとこ真面目だからさ。
ちゃんと決まった時間内に配達しときたいわけ。
いや、たかがバイトっちゃバイトなんだけどさ。
そろそろバイトリーダーになるわけだし。
いや、バイトなんだけど。
の顔を見た瞬間、別段思い出したくもないあれやこれやが一斉に思い出され、
本当に吐きそうになったっていうか、思い出なんて特に美しくも何ともねェな、
だとか過去の己と一刻も早く決別したくなったんだけど、
まあ俗にいう黒歴史って奴だよな。
思い出したくもないあれやこれや、誰にだってあるだろ。
え?ない?ああ、そう、ないの。
ま、俺もそこまであれはあれなんだけど―――――
「…」
「…」
届け先はお得意様中のお得意様である真選組の屯所だったわけで、
いつもはパシリ中のパシリみたいな奴がヘラヘラと出て来るわけで(山崎の事である)
今回もそうかと思っていればだ。
何かよく分かんないんだけど、 が出て来たんですけど。
もう無言よ。そりゃもう無言でしょ。
店名とか忘れちゃったしね、俺。
吃驚し過ぎて忘れちゃったから。
だってさっき、数年振りにすれ違ったってのに、
今度は配達先にいるとか、それって何てエロゲ?
俺とお前の物語完全に始まっちゃってない?
何て思いも束の間、奥から出て来た不愛想な男が場の雰囲気をぶち壊し、
ピザを受け取り物語はジ・エンド。
挙句、遅いだの冷えてるだのと御託を並べ出し、
次回500円引きのサービス券を山ほど渡す羽目になった。
その間、肝心の は一言も喋らないし、俺も特に話しかけらんねェし、
何かもぅ色々と最悪で、そういやいつだってそうじゃね?みたいな。
俺とお前の思い出って大体最悪じゃね?って。
だからお前はそうやって、本当俺の事、知らない振りしてんだろ。
「あざしたぁー」
「おう、又よろしく頼むわ」
ぴしゃりと閉められたドアの前、深々と首を垂れた俺。
何かもう気分は最悪で、このままバックレようかななんて思ったんだけど、
店長から早く戻って来いなんて連絡まで来やがる。
もう何も考えたくなくて、そのまま走り去った。
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「…なぁ」
「何です」
「知り合いだったのか?」
「…え?」
「!」
「いや、別に」
「機嫌悪ぃのな」
まさかこの街に戻って来る事になるとは思わず、
少しだけ嫌な予感がしていればこの有様だ。
まさか初っ端から全蔵に遭遇するとは夢にも思わなかった。
思わず息を飲んだが志にブレはない。
あんな馬鹿な男と再会したところで、
こちらの心は一切動かないし、何も起こらない。
只、あの頃の思い出が、封印したはずの記憶がいきなり蘇り動揺しただけだ。
「おっ、どうした、 。喰わないのか?」
「早く喰わねェと、なくなりますぜ」
「恋煩いだと」
「違いますけど!?」
「何ィ!?恋煩い!?!?お父さんは許しませんよ!?」
「違いますから!!」
「いや、絶対そうだろ」
「土方さん、そういうのセクハラって言うんですよ」
「よし、じゃあまず土方さんを捕らえますかねィ。おい、そこのセクハラ野郎」
あの日の事はきっと誰も知らない。
当事者の二人以外には知る由もない。
随分昔の話だし、この胸の鈍痛でさえ勘違いかも知れないのだ。
それなのに、あの男は動揺した顔を晒すのだし、この胸は確かにざわついた。
相手は誰なのだと騒ぐ近藤をよそに、
あの日のくだらない裏切りは誰を傷つけたのだろうかと、そんな事を考えていた。
昔付き合ってたとかそういうやつ〜!
そういうの凄く好きなうえ、
真選組とか絡ませるのもすごい好きです
節操はいつだってないよ!
2018/06/11
NEO HIMEISM