錆び刀の創痕が残る間に

• そういう男だと分かっているのに、
  いつまでも切れずにいる自身が悪いのだ。
  
  
  
  こちらがどれだけ感情的に嘆いても、
  尾形は容易く受け流し、まるで違う話にしてしまう。
  悪いのは尾形一人だけのはずで、
  確かに今ここでこちらは散々と傷つけられているにも関わらずだ。
  あの黒い眼に見つめられると、思考が一切停止してしまう。
  
  
  
  何を言ってるんだ、お前。
  どうかしたってのか。落ち着けよ、 。
  俺を見ろ、ほら。いいから。
  俺の目を見て。それから。
  
  
  
  そんな事の繰り返しで、いよいよ頭がおかしくなりかけたのだと思う。
  そもそも事の発端は尾形の浮気だ。
  浮気というか、何ならこちらが浮気だったのかと言うのか、
  兎も角あの男にはそういう関係の女がいたわけで
  (それもどうやら一人や二人ではなさそうだ)
  こちらも気が動転したのか、
  やはりこの男の事を愛していたのか意地になったのかは分からない。
  分からないのだが、咄嗟に平気な振りをしてしまった。
  その判断が恐らく大きな間違いだったのだ。
  
  
  
  浮気がばれたからといって、当の尾形は一切の言い訳もしないわけで、
  それどころか平然と認める始末だ。
  そういう事もあったかも知れないな。
  で、これからどうする。
  だなんて会話を幾度も繰り返し、
  こちらの心はすっかりと参ってしまった。
  
  
  
  誰かに相談しようとも、
  そんな男とは別れてしまえと言われる未来予想しか出来ないし、
  別れれば別れたで、尾形は幾人かいる女達とこの時間を共有するだろう。
  それを許せず、愛さない尾形が許せず、俗にいう泥沼にはまり込んでいた。
  
  
  
  都合のいい時に尾形は連絡を寄越す。
  こちらからの連絡には一切の返答をしない癖に。
  追えば追う程、尾形の心は離れる気がして、じきに身動きが取れなくなる。
  
  
  
  流石に見かねた友人が、いつまでも口を割らない に忠告した。
  そんな男、本当にダメ。もう見てらんない。
  身動きの取れない を、こちらも半ば強引に合コン等に繰り出した。
  尾形の事を考える暇がないくらい遊びに連れまわし、
  他の可能性もあるのだと、男は尾形一人ではないのだという、
  至極当たり前の事実を差し出した。
  それなのに。
  
  
  
  「…帰ってよ」
  「いいだろ、入れろよ」
  「ヤダ、無理」
  「もう終電もないんだよ」
  
  
  
  ここで部屋に入れてしまえば、
  もう何もかもが元の木阿弥だ。
  
  
  
  「…他にもあてはあるんでしょ」
  「ん？」
  「別に、ここじゃなくても」
  「俺はお前がよかったんだけどな」
  「…」
  「まあ、そんなに嫌なら無理強いはしないぜ」
  
  
  
  だなんて嘘に決まっている。
  うちが駅から一番近いからだとか、最近音沙汰がなかったからだとか、
  尾形の行動には必ず理由があるのだ。
  
  
  
  だけれど、それが何故なのか、それだけが分からない。
  愛してない癖に、どうして手放さないの。
  
  
  
  だけれどそれからは尾形の思うがままの展開で、
  まんまとドアを開けた の隣をすり抜けた彼は満足げに室内を見回す。
  この女はまだ俺のものだと、他の雄の痕跡を探し、
  まだまだ抜け出せてはいないのだろうとほくそ笑む。
  
  
  
  こうなる事は分かっていてドアを開けた。
  他の女の元に行かせる事が出来なくて。
  
  
  
  露骨に天秤にかけるような残酷な真似をよくも出来たなと思うが、
  心がないのだ。何だって出来る。
  
  
  
  僅かにアルコールの匂いが漂う尾形は、
  まるで我が物顔で室内を占領している。
  
  
  
  早くこっちに来いよ、 。
  男の声が聞こえた。
  
  
  
  
  
  

  これはもう完全にセフレの話ですね

  それって夢なのどうなのという…

  まあ、それはそれとして尾形は

  こういうマーキングのような事をしそう

  こういうのが立派なセフレであり、

  ロクでもない男です

  
  
  2018/06/11
  
  NEO HIMEISM