愛はやがて血に変わる
この小部屋に連れて来られ、
随分な時間が経過したような気がする。
この部屋には何もない。
床に置かれたマットレスと薄い毛布、
天井からつり下げられた太いチェーンとその先にぶら下がるフック。
右足首に繋がれた拘束具は一向に外れず、摩擦で皮膚だけが裂けた。
時間の概念というものはすぐに失われる。
唯一ある最後の記憶は毎月恒例となった握手会の会場で、
その前ライブで新曲をお披露目したと思う。
掃いては捨てる程いる地下アイドルの中、どうにか頭角を現そうと必死だった。
メンバー皆がそうだ。
よくない大人達に身を売り、ファン達に夢を売り、
どうにかこの業界にしがみ付く。
同期のグループが次々に解散していく恐怖に晒されながら、
それでも自分たちだけは違うのだと必死だった。
誰の何が功を制したのかは今になっても分からないが、
ようやくメジャーデビューを果たした。
その記念握手会。
今思えば、これまでも前兆はあったのだ。
ライブ帰りに感じる視線、バイト先にかかってくる無言電話。
何故か違和感のある自室。
こういう活動をしていればよくある事で、
誰かに相談しても結局は自衛する他ない。
下手をすると妬まれる可能性さえある、そんな業界だ。
それでも家に届く脅迫めいた手紙が増えるにつれ恐怖感は増し、三度引っ越した。
握手会に来るファン達の中にその犯人はいるのだろう。
そう思えばゾッとするが承認欲求は退く事を許さない。
そう思えば自分で蒔いた種だと思えた。
あの日のライブにも男は来ていた。
いや、これまでのライブにも来ていて、こちらは噂にもしていた。
じっとこちらを見据える、棒立ちの男がいる。
サイリウムを振り上げ楽曲に乗るファン達の中、
一人だけ棒立ちの男は酷く目立つ。
最初はメンバーの内の誰かが話していた気がする。
その話を聞いた他のメンバーが捜すようになり、 も目に付くようになる。
その男は色んな場所にいた。
ライブ会場の壁際に立っていたり、真ん中にいたりだ。
こちらと目が合っても表情一つ変えず、微動だにしない。
その様が酷く不気味だった。
「…いよぉ」
「…」
「今日もだんまりか」
俺は別に構わんが。
外からかけられた鍵が外され、男が入って来た。
あの、ステージ上のこちらを見据えていた男だ。
一日に少なくても一度は訪れる。
最初、この室内で目覚めた時、この男はこちらを見下ろしていた。
ようやく目覚めたか。
そう言われたと記憶している。
まるで状態の飲み込めない に男は襲いかかった。
間髪入れずというやつだ。
悲鳴を上げ、大声で助けを求めても、
もっと聞かせろよと笑うだけで動きは一切止めない。
メジャーデビューの為に誂えた衣装を力任せに引き裂き、首に手をかけた。
恐怖心が勝り声が出なくなった。
男は特に力を込める事無く、
どうした、もう叫ばないのか、等とこちらを挑発するように哂う。
初めて恐ろしいと思い、それからは身体が動かなかった。
薄暗いコンクリの壁に四方を囲まれた室内で男に犯されながら、
数時間前までは幸せの絶頂だったのに、
どうしてこんな事になってしまったのかを考える。
対して濡れてもいない性器に無理矢理突っ込んだ男は、
何だ処女じゃないのか、そんな事を呟いていたが、
そんな事よりも少し離れたところにみえる縄が目に入り気が気でない。
混乱の最中、男が中に発射しようとしている事に気づき、
咄嗟に身を捩るが上から肩ごと抑えつけられ身動きが取れなくなった。
その間に男は膣内に射精した。
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男は尾形と名乗った。
名乗った理由は、二度とこの部屋から出る事は出来ないからだそうだ。
。お前はもう二度とこの部屋を出る事は出来ない。
ここでブタのように喰らい眠りセックスする、
それがこれから先に待ち受けるお前の人生だ。
男の目は暗く深い。
目と鼻の距離感でそう言われ、言葉も出なかった。
「ほら、 。メシの時間だぜ」
「…」
「無理矢理喰わされたいのか?」
俺は別に構わないんだぜ。
男の用意する食事はクラッカーが数枚だ。
たまにシリアルバーを渡される場合もある。
一定のカロリーしか与えないつもりなのだろう。
死なないが確実に体力を奪う。
この餌やりの時間が終わると次に待ち構えるのはセックスだ。
初日に危惧した通り、男は縄でこちらを縛り弄んだ。
天井から吊るされたフックに縄をかけ、
片足が辛うじて地面につくような体制で縛り上げる。
もう片方の足は折り曲げ拘束した。
そういう、あえて卑猥な恰好をさせ、その様を中継するのだ。
お前の身体はこんな目にあってまでだらしなく男を咥えこむ。
どの面さげてアイドルなんてやってるんだよ。
尾形の責めは執拗だ。
痛みを与えながらじわじわと身体を馴らす。
器具で嬲りその様を撮影し、自尊心を根こそぎ奪う。
途中で気づいたのだが、薬を盛られているのだろう。
そうでも思わないと、尾形の責めに逐一反応している自身が余りに惨めだ。
死にたくなる。
死にたく―――――
尾形の手が乳房から鎖骨、首筋に流れ頸動脈に触れた。
尾形の性器は先程から強烈に を突き上げているし、
クリトリスにはぴったりとフィットする形状のローターが装着されており、
この身体は全身が汗ばんだままひたすら感じている状態だ。
力が込められ顎が上がる。
尾形はこちらをじっと見ていた。
瞬き一つせずに。
首を絞める力は増し、呼吸は完全に止まる。
それでも尾形の動きは一切止まらず、
酸欠の脳は一切の思考を止め視界も失せる。
あぁ、気持ちいい。
尾形の声が聞こえたような気がした。
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激しい水音で目が覚めた。
どうやら死んではいなかったらしい。
水音の正体は、尾形が手に持つホースから放たれるぬるま湯だった。
この部屋の脇に設置されている水場で、汚れた身体を洗い流されているのだ。
ぼんやりとした視界に映る己の身体は縄の後で汚れており、うんざりした。
髪の毛一本ほどの傷もつけないように生きてきたというのに、この有様は何だ。
アイドルとして生きていく為に血反吐を吐く程、頑張っていたというのに、
こんな小部屋で男に犯されている。
まるで汚物のようにホースで水洗いされ、
股の間から垂れ流される血液と精子、体液の交じり合ったそれ。
それを目にした瞬間、感情が決壊し尾形に掴みかかっていた。
あんた何なの、何のつもり。
どうしてこんな真似、こんな酷い真似。
出してよ、帰して。
尾形は少々うんざりしたような表情で を見下ろし、片手で水を止めた。
「…お前、何か勘違いしちゃいないか」
「…!」
「まだ自我なんて詰まらねェもんが残ってるのかよ」
お前の意思なんて必要ないんだぜ。
だってそうだろう。
尾形が の両手を掴んだ。
ここで間違いに気づく。
セックスを繰り返せども、何かが通じ合うわけではないという事。
この男はそんなつもりではないのだという事。
「やめ」
「だから、意見するなよ」
「…!」
床に抑えつけられ、無理矢理挿入される。
痛みに叫べでも当然、尾形の動きは止まらない。
もう嫌、やめて、ふざけるな、死んで。
あたしに触らないで。
家に帰してよ、あんた何なの。
思いは止めどなく溢れ、涙も止まらない。
俺はお前の声が好きなんだよ、 。
だから幾らでも叫べ。
お前の声は耳障りが良い。
この部屋は狭く時間の概念さえない。
どれだけ叫べどもコンクリの壁は全てを吸い込み、全ての過去を奪い去る。
散々貪り出て行く尾形の足元を眺め、
果て無い絶望に飲み込まれる の背後、
壁の中で早くおいでと呼ぶ声が聞こえた気が、した。
ついったで見かけたドルオタ尾形です
前半ドルオタ、後半殺人鬼
みたいな感じになってしまった
このやり口は某殺人鬼(米)に寄せてみました
2018/06/22
NEO HIMEISM