まるでふりだしに戻るかのような回帰

その男の手口は決まって一つで、
パパとママが急に出かけちゃったからお迎えに来たんだよ、
そんな言い回しで近づく。
おじいちゃんの家に連れて行ってくれって頼まれたんだよ、なんて続けてな。

そもそも声をかける場所だって事前に、それこそ周到に調べ尽くしてる。
人通りが一切なく、目撃者も無論いない。
その子が友達と別れ、自宅に向かう僅かな一本道。
住宅地だから監視カメラもない。

当の子供は油断し切っている。
まさか自宅の側でそんな目に遭うだなんて想像もしていないのだ。

こちらの言葉を鵜呑みにする馬鹿な子供は車に乗せ、
すぐそこに家があるから、だなんて警戒心を見せる賢しい子供は力づくで捕獲する。

ここは住宅地、事前の調べでは大半が共働きで、
この時間帯には誰も在宅していない。
急の展開に当然子供たちは手足を投げ出し大暴れするか、
恐怖の余り固まって動けなくなるかの二択だ。

暴れるようなら薬品で大人しくさせるし、いや、黙ったままでも同じだな。
お前と同じように。

兎も角、そいつはそんな手口で数十人の子供を拉致して殺した。
凄惨な拷問と性暴力によって散々と痛めつけた後に。

何故、俺がそんな事を知ってるのかって顔だな。
聞いたからだよ。本人に直接な。
面と向かって、事細かに。

「…何で、あたしに」
「俺がどうしてお前にこんな話をしてるのかって？」

お前が初めてじゃないんだって事を理解しろ。
お前に求めるのはそれだけだ。
それがどういう事か理解るよな。

男の目は黒く深く、こちらをじっと見据えている。
一切の表情が読めない、
まるで面のような顔だ。

この男に出会ったのはそれこそ一時間程前だ。
只の通りすがり程度の存在のはずで、
それこそ日に何十人とそんな相手は産まれる。
自宅までもう後500mというところに車が止まっていた。

トランクが開いており、そこで一人の男がごそごそと動いていた。
辺りには誰もおらず、もスマホを片手にとぼとぼと歩く。

『すいません』
『！』

顔を上げると、トランク部分でごそごそと動いていた男が
顔を上げこちらを見ている。
ニコニコととても愛想よく、優しそうに思えた。

男は右手にギプスをしており荷物を運ぶ事が困難なのだと言い、
もしよければ助けてくれないかと申し出た。
男の足元には確かに片手で持つには
無理がありそうな段ボールが数個詰まれていたし、
とても感じがよく思えたのだ。

だからスマホをバックに仕舞い、のこのこと近づいた。
男は微笑んでいた。

段ボールは思いの他、軽かった。
持ち上げトランクに向かう。
助かります。
男はそのような事を言っていたように思える。

箱を詰み終え、これでいい？そう聞こうと顔を上げた瞬間だ。
顔面から頭部にかけ激しい衝撃が走り昏倒した。
僅かに残った意識下、男の穴のような眼だけ覚えている。

次に目覚めたのはこの小部屋で、パイプ椅子に座った形で縛られていた。
意識が戻った瞬間、顔の左側面から頭部にかけ激しい痛みに襲われる。
室内は闇に包まれ何も見えない。
身を捩るが微動だにせず、手首の皮膚が僅か擦れただけだった。

一通りジタバタと足掻いた。
大体時間にすると10分くらいのものだ。
急に照明がつき、反射的に目を閉じた。余りに眩しかったからだ。
薄目を開け様子を伺う。あの男だ。
あの、右手にギプスをはめていた男がそこにいた。

どこにもギプスはなく、両手は自在に動いていた。
男は部屋の隅からパイプ椅子を引き摺り、
の目の前に陣取った。

そうして上記の会話。一斉に恐怖心が増す。
私はこの男に拉致されたのだ。
それがどういう意味なのか―――――

「連れ去られた子供たちがどうするか知ってるか」
「…」
「泣いて喚いて、助けを求めて。お家に帰りたいって、帰してって懇願する」

パパとママに会いたいって泣くんだよ。
男がゆっくりと椅子から立ち上がり、の頬を撫でた。

お前は何て叫んで泣き喚くんだろうな、。
聞かせてくれよ、期待してるぜ。

男はまるで変わらない表情でそう呟き、の顔を覗き込む。
ぐっと噛み締めた奥歯。
そうでもしないと全身が震えて仕方がない。
この男は極めて危険人物だ。
私を―――――

「祈れ、俺に」
「…」
「乞え」

殺すのだろう。

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「これで三人目だな」
「通報したの、おたく？」
「ちょっとお話聞かせて貰えるかな」

この界隈で連続して発生している行方不明事件。
恐らくその被害者であろう三人目の遺体が発見された。
場所は町外れの原生林。当然人気のまったくない場所だ。

第一発見者は原生林の手前にあるキャンプ地から道を外れた若者たちで
(とは言っていたが、恐らく大麻でも楽しむつもりだったのだろう)
若い女の全裸遺体を前に腰が抜けたらしい。
仲間の内の一人が携帯で通報し、我々三人が出向く事となったのだ。

我々のボスである鶴見博士は一人目の遺体発見時から
一貫してこれは連続殺人だと断言しており、
早い段階で行動分析課では追っていた事件になる。

今回は偶々現場近くにいた玉井・岡田・野間の三人に指示が下りたのだ。
発見された遺体は1人目、2人目と同様全裸であり、
その身体には無数の傷跡がついていた。
縄で拘束されたような跡も多々ある。

これで三人目だなと呟いた玉井は現場保持をしており
(野次馬は悉く現場を荒らすものと相場が決まっているのだ)
岡田と野間が手分けして事情聴取をしている。

「あらぁ～っ！同じですねこれはぁ！」
「鶴見博士からの指示だ、全方向から写真を撮って送るぞ、宇佐美」
「はいはい、わかってますよぅ」

一足遅れてやって来た宇佐美と月島は、
鶴見からの指示に従い写真を撮りまくっている。

この二人は元々、鶴見博士の元で働いていた古参の行動分析課の人間だ。
先の三人とは扱いが違う。

この連続殺人事件が発生し、現場の所轄に捜査本部を設置した鶴見博士は
地元の警察から数人の人材を引っ張って来た。

それが玉井・岡田・野間の三人であり、
こうして真っ先に情報を送るよう煩く言われているわけだ。

「おたくの博士、何か閃いてんのかい」
「岡田」
「あのガキ達はハッパをやる為にここに立ち寄って、仏さんを発見したらしい」
「悪い事は出来ねェな」
「この娘、捜索届が出てたはずだ」

この調子じゃ被害者はまだまだ増えるはずだという
鶴見の言葉が浮かんだが伝えない。
パトカーのサイレン音が徐々に増え、
正式な現場検証がこれから始まるはずだ。
あらかた写真を撮り終えた宇佐美と共に引き上げる。

事件はまだ始まったばかりだった。

ずっと言ってた板金屋杉元のプロローグです

杉元出て来てねえええ～！

連続殺人鬼尾形のせいで被害者が増えるばかりなんですが

その被害者の名前を変換している為、

どういう気持ちで読んでいいのか分からない話に

第七師団を出せて楽しいです

2018/06/25

NEO HIMEISM