いかほどの絶望でしょうか

それは確か、大学在学中からの良くない癖だ。
友人たちは常に口煩く、危険だからやめろと言っていたし、
都度いた彼氏たちもいい顔をしていなかったし、
そもそも両親には言った事もない。

繁華街から少し離れた場所にある、
薄汚いガード下だとか、その先に広がる古い路地が好きで、
見かける度に足を運んでしまう。
あの時代から忘れ去られたような、時の止まった雰囲気が好きで、
細く古い路地に入り込んでしまう。

これまで幸いにも危険な目に遭った事がなく、
それが自身の危機感を鈍らせていたのかも知れない。

都会の、それも繁華街から外れた古い路地は
素性の知れない社名を掲げたアパートや、
ここ最近では見かけない古い木造の共同アパートが立ち並ぶ。
陳腐な例えだが、非現実的な感覚に酔いしれるのだ。
容易い逃避だと知っている。

実家がある田舎町では感じる事の出来ないそんな高揚感に酔いしれ、
周囲の声も聞かずに生きていればこれだ。
連日のように報道される事件は
自分にはまるで関係のないものだと思っていた。

だから今日、つい先刻。
普段より残業時間が長く一人で退社したは、
これまでも幾度か訪れた事のある、お気に入りの路地に足を踏み入れた。

ここ最近は仕事でもプライベートでもロクな事がなく、
とても疲れていたからだ。

この路地には最近ではとんとお見掛けしないような古い木造アパートがあり
(それはまるで一見、廃墟のような)
異国のシェアハウスが立ち並ぶ。
抜けた先には商店街が広がり、この静寂さがまるで嘘のように華やぐのだ。

そこの商店街で夕飯を食べ、終電で帰るかと考えていた矢先の出来事。
慣れた道だと歩いていれば、暗がりからぬっと伸びた腕に気づく。
反射的に視線がその先を追っていた。

例の、何の会社か分からない謎の部屋のドアが僅かばかり開き、
そこから腕が伸びていた。

コンマ10秒単位の情報は脳に辿り着く前にこの身を脅かす。
男。男の腕だ。
男の太い腕が目の前に現れ、声を出す間もなくを引きずり込んだ。

当然だが目撃者などいない。
ここはそういう道で、そういう路地だからこそ好んだ。
こんな大都会の片隅、誰にも知られる事無く
人一人が消えるなんてよくある話なのかも知れない。
容易く引きずり込まれる己の身体には、まるで何の価値もないように思えた。

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引きずり込まれた先は明かりもなく、
所々に赤い点とスマホの明かりが見えた。
一人ではないという事だ。あの赤い点は煙草だろう。
このご時世だというのに室内は白く煙っていた。

こちらが声を出す前にを引きずり込んだ男が手で口を塞ぐ。
胸元にかけられた手はシャツを裂き、
目的は一つだとこの身に叩き込む。

ようやく恐怖が追い付いた身体は動く事さえ出来ず、
ひたすら喉が渇いていた。

いいのかよ尾形。

男がそう声を張り上げる。やはり知らない男だ。
知らない男は奥の方にいる誰かに話しかけながらこちらの身を弄っている。
視線だけを動かせば、男の話しかけた奥の方、
煙草の赤い火が動き近づいて来た。
そのまま床に押し付けられているを覗き込む。

やはり知らない男だ。
酷く暗い眼をしたツーブロックの男。
煙草を咥えたまま、
垂れる髪をかき上げこちらをマジマジと眺めている。

「こいつだろ」
「あぁ」
「俺いいの？先やっちゃうよ」
「いいぜ」

いいってよ。
男が耳側でそう囁き頬を舐めた。

良いも何も、何故お前が。
この灯りのない室内はやはり非日常で、こちらの意思はまるで通じない。

いざ犯されると分かった瞬間、全身が拒否反応を示し
どうにか逃れようともがくが男に馬乗りになられてはそうもいかない。
男はの肩を抑え自由を奪った。

ここを抑えると動けないんだよね。
そう言い笑う。

何故だとかどうしてだとか。
そういった当然の疑問さえ口にする事は叶わず、
生まれて初めての経験だから何も出来ず思えず、見知らぬ男に犯された。

全力で抵抗しようとも身体はおかしなほど動かないし、男の力はやたらと強い。
尾形と呼ばれた男はまた元の位置に戻り、
こちらを見ているのか見ていないのか、何をしているのかも分からない。
男が正常位でこちらを犯している時に唯一、中に出すなよと口を開いた程度だ。

その時にこちらを犯している男の名も判明した。
宇佐美。
確か、そう言っていたと思う。

宇佐美は、はいはい、だなんて気のない返事を返し、
の胸から顎にかけて射精した。

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何となく目につく女ってのがいる。
飛びぬけて美人だとかスタイルが良いだとか、
そういう誰しもがってやつじゃない。

恐らく目につくなんてのは其々の主義によって違い、
どうやら俺にとってはその危機感のなさに尽きるのだろうと思った。

獣の世界でも同じで、危機管理能力の低い個体から命を落とす。
そんなのは獣だろうが人だろうが変わらず、差はないのだという理論だ。
だから所謂、危機感のない女。容易い獲物に目が向く。

この女がここ最近、頻繁に一人でこの辺りをうろついている事を知っていた。
この手合いは一定数おり、この界隈の成り立ちをよく知らない者。
基本的に地方出身者になる。

古くからこの辺りに住んでいる人間は様々なしがらみを知っている為、
そんなに軽率な行動をしない。

だからって言っとくが、別に俺だけってわけじゃあねェぜ。

この女はとっくに話題に上がっている。
こうなるのは時間の問題だった。
それだけだ。
誰が喰うか、それだけの話。

そもそも、この女とはもっと他でも出会っているのだが、
その事に気づくとも思えない。
この女は俺の存在に気づいていない。
それも気に入らない理由の一つだ。

この女の職場はこの路地を抜けた先、ターミナル駅にほど近い高層ビルの中にある。
女はそこで働いており、仕事終わりに同ビル内のジムで汗を流す。
随分恵まれた良い暮らしをしているわけだ。
尾形はそのジムにリネンを卸す業者として立ち入っており、
の姿を目にしていた。

だから余計に違和感だ。
あんなところにいる女が、この薄汚い路地で何をしていやがる。
そんなに、美味そうな匂いをまき散らして。

「お前やんねーの？」
「俺は今日、ちょっと風邪気味なんだ」
「は？うっざ」
「好きにしてろよ」
「俺ちょっと喉乾いたからコンビニ行ってくるけど」

お前も何か飲むのかと、今しがた犯したばかりの女に聞いている辺り、
やはりこの男もどうにかしている。
女―――――は呆然としたまま(そりゃそうだ)頷かない。
詰まんねェ女だな、返事位しろよ。
宇佐美は服を着ながら呟き、コンビニへと出かけた。

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が犯されている間、彼女の私物を漁っていた尾形は、
財布から免許証を抜き取りに近づく。
尾形の足音に気づいたは一瞬、ビクリと身を震わせた。

「なあ、」
「！」
「お前の身元は押さえた。住所も、職場も。とんだ痴態も撮影済みだ」
「…」
「これがどういう意味か分かるよな」
「どうして」
「俺たちは暇なんだ。ずっと暇を持て余してる。
　別にお前がサツにタレこもうが、そんなのはどうだっていい。
　俺たちの中じゃ前科なんてそう珍しくもないし、
　正直なところ、何がどうなったっていいんだ。失うものがないからな」
「…」
「お前がサツにタレこんだら、とりあえずこの動画をネット上に流す。
　別にお前が憎いだとか、報復だとか、そういう話じゃあない」
「なに、」
「そっちの方が、面白いだろう？」

だからこれはゲームなのだと囁く尾形は、
先程、宇佐美に犯されていたの動画をスマホで再生し、
映りはどうだ、なんて事を聞いているわけで、
言葉を失ったは呆然自失と言った具合で必死に現状を把握しようとしている。

皆そうだ。皆、同じような反応を示す。
酷く健気で愛らしいだろう？

「俺からの連絡には必ず出るんだ」
「・・・」
「何、そんなに悪い事ばかりじゃあないさ」

一緒に楽しもうぜと嘯く尾形はのスマホを操作しており、
逃げ道は完全に潰されたのだと知る。
ほら、笑えよ。記念写真だ。
向けられたスマホのフラッシュが酷く眩しく、思わず顔を背けた。

何の話かといわれると、

尾形と宇佐美の犯罪話です

ここ最近よく書いている実録犯罪史シリーズ、

俗に言う被害者夢です。

俗にというか、ここで言ってるだけなんですけど…

この前、迷惑さんとお会いした際に

頂いた某路地写真からのひとつ

とりあえずその、失礼だろうと

すいませんでした！！！！

そういう人たちの話です

＊犯罪です

2018/09/10

NEO HIMEISM